冗談ではなく、本当に本作品の本邦発売時の邦題は「...ん?」だったんです。そして、本作でリード・ボーカルを披露しているスウィート・ピー・アトキンソンの、ウォズ(ノット・ウォズ)がプロデュースしたデビュー作は「...えっ?」だったと記憶しています。

 ふざけるにもほどがあると怒るところですけれども、この邦題、実は言い得て妙でした。この作品は不思議に耳に引っかかる作品で、本作を耳にした私は「...ん?」と思いました。ちなみにドン・ウォズのプロデュース作品を聴くと「...えっ?」と思います。

 ウォズ(ノット・ウォズ)はモーターシティ、デトロイトで結成された二人組です。当時は兄弟だという触れ込みでしたが、そうではありません。ジャズ評論家で作詞担当のデイヴィッド・ウォズと作曲担当のドン・ウォズの二人で、名字は芸名です。

 ドン・ウォズは後にプロデューサーとして名を成し、ブルーノートの社長に収まるという圧倒的なキャリアを築いていきます。この作品が彼の原点とも言え、それだけでもアルバムの価値があるというものです。

 レーベルは当時のアメリカでぶいぶい言わせていたZEレコードです。当初からダンス・フロアと相性のいいレーベルでしたけれども、日本ではもっぱらリディア・ランチやジェームス・チャンスなどニューヨークのパンク・シーンを紹介するレーベルとして知られていました。

 そんな理解の中で本作品がZEレーベルから発表されたわけなので、期待していたのはパンクなりポスト・パンク的な過激な変態音楽でした。ところが、いきなりディスコ、R&B、ソウルの王道と言ってもよいサウンドでした。「...ん?」と思う気持ちも分かってください。

 しかし、なお悩ましいことに、決して古臭かったり、過去の焼き直しだったりするわけでもなく、何だか新しい。チャート・アクションはさっぱりでしたけれども、音楽業界からの評価は高く、耳の肥えた視聴者からも愛されたという事実がそれを物語ります。

 そのサウンドとデトロイトという土地柄を考えあわせると、ウォズ(ノット・ウォズ)はモータウンとテクノをつなぐ存在であったのではないかと思います。当然、後知恵ですけれども、それほどここで聴かれるビートは新鮮でしたし、サウンド・プロダクションは完璧でした。

 参加しているミュージシャンははっきりクレジットはありませんが、リード・ボーカルにハリー・ボウエンスとスウィート・ピー・アトキンソン、ギターにデトロイトの伝説MC5のウェイン・クレイマー。さらには真偽のほどは定かでないもののPファンク勢も含まれている模様です。

 かっちりとしたファンクな楽曲がこれでもかこれでもかと連打されていきます。私の耳を奪って離さないのは「ホウェア・ディド・ユア・ハート・ゴー?」、邦題は確か「哀愁のメキシコ」です。正面から泣きのメロディーを他愛ない歌詞で歌い上げる名曲です。ワムもカバーしました。

 自由度が高いサウンドながら、将来のメイン・ストリームの動向をすでに予言しています。どう消化していいのか今でも悩ましい傑作です。なお、CD再発に当たってリミックスなどを加えて「アウト・カム・ザ・フリークス」と改題されています...ん?

Out Come The Freaks / Was (Not Was) (1981 ZE)