NHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」は名作「ちゅらさん」と同じ岡田惠和の脚本が冴えわたっていてとても面白いです。珍しく女一代記ではないので、確たるストーリーがあるわけでもなく、脚本に自由度が高いところがいいです。

 「ちゅらさん」同様にほっこりしたストーリー展開で、名優陣に支えられた有村架純の演技が光ります。私は岡田さん同様、「阪急電車」以来の有村架純ファンですから、もう堪りません。それに彼女にはとても昭和が似合います。

 時代背景は1960年代の日本です。私の世代からはひと回りくらい上の世代なので、懐かしいとは言え、自分の人生に重ね合わせられるほどではありません。その分、適当な距離感で昭和レトロを楽しむことができます。

 さて、この作品はその「ひよっこ」のサウンドトラックです。主題歌となっている桑田佳祐の「若い広場」はもちろん含まれていませんけれども、劇伴音楽にはより濃厚な昭和レトロ風味が満載されています。

 音楽を担当しているのは宮川彬良、劇団四季や東京ディズニーランドなどのショーの音楽で作曲家デビューした人です。その代表作には「身毒丸」から「マツケンサンバII」まで、かなり振れ幅の大きい作品が含まれています。

 番組制作統括の菓子浩によれば、宮川に曲のイメージを伝えようと「何とか捻り出す言葉に」、宮川はゆっくりとメモをとりながら耳を傾けていましたが、なんと宮川が書いていたのは言葉ではなく音符だったのだそうです。

 作曲家の秘密の一端が垣間見えるエピソードです。しかし、当の宮川は本作品は台本を熟読して初めて「頭の中に音楽がとめどもなく流れ出した」と書いています。「そうか、これが『ひよっこ』か!」と感じた瞬間からメロディーが湧きだしたと。

 そのメロディーは「一体どこから来たのだろうか」と作曲家を不思議がらせます。ミューズの神が舞い降りました。そのメロディーに触れると「目を閉じれば、ヒロイン・みね子や家族や仲間たちが、生き生きと動き出す様子が浮かんできます」。何ともはや。

 本作品には約60曲も作られた中から37曲が収録されています。生楽器のみを使った演奏はいかにも昭和を思わせます。とりわけ「東京1964」や「ようこそ乙女寮へ」あたりにはディープな昭和感覚が横溢しています。

 繰り返し出てくるのは、みね子のテーマとなっている「ひよっこのマーチ」や、その名もずばり「家族」などで、シンプルなメロディーが昭和を演出していますが、決して古臭いわけではありません。そこらあたりの微妙な加減が素晴らしい。

 「ひよっこ」は小物にまで凝りに凝っていますけれども、このサウンドも相当なものです。ジャズやラテンがまだ中心だった時代、まだロックが主流となる以前の時代のサウンドが、目いっぱいの優しさとともに再現されています。サントラの鑑です。

Hiyokko / Akiyoshi Miyagawa (2017 Speedstar)

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