カンを巡る状況はかまびすしく、「カン・プロジェクト」として、コンサートやら未発表ライブの発表などさまざまな活動が現在も行われています。本作もその一貫で、これまでにカンが発表したシングルを集めた編集盤です。意外にもこういうアルバムはこれまでありませんでした。

 アルバムに収録されている曲でも、シングル盤はまた異なるエディットをしていたため、ここがアルバム初出となる曲も多く、大変貴重です。そもそもテープが残っていないものもあったようで、それはレコードを元にできる限り再現したということです。

 スリーブにて感謝が捧げられているのはジョナサン・モニッケンダムという方で、彼の7インチ・コレクションが本作の完成に不可欠だったそうです。本人たちすら持っていなかったということで、この方はコレクターの鑑と言ってよいです。うらやましい。

 本作品には1969年の最初のシングル「ソウル・デザート」から、1990年の復活作となるアルバム「ライト・タイム」からの「フーラー・フーラー」まで全23曲が時系列で収録されました。最後の曲を除けば、1978年までのほぼ10年間を描いた作品といえます。

 アルバムとしてはほぼ全てを網羅していますけれども、巷間で噂されるカルトなカンの全体像を手っ取り早く知るのにお手頃というわけではありません。カンとは何かを知りたければ、「カンニバリズム」の方がよほど良いです。その意味ではこれは上級者向けです。

 シングルのみの曲はダモ鈴木がボーカルをとっていた時期の「シカコ・マル・テン」、「タートルズ・ハヴ・ショート・レッグス」、ヴァージン期の「サイレント・ナイト」、「リターン」の4曲です。アルバム収録曲もバージョンが違うものが多いのですが、そちらは超上級者向けです。

 私はカンのアルバムを全部持っているので上級者の片隅に加えて頂けると思いますが、長さ以外のバージョン違いを指摘できる超上級者ではありません。そんなわけですから、やはりシングルのみの曲に注意が向いてしまいます。

 一際目立つ「シカコ・マル・テン」はダモが♪四角、丸、点♪と繰り返す不思議な曲です。30万枚を売ったというカン最大のヒット「スプーン」のB面に収まっていたとは天晴です。時代が下ったカンのアルバムのスタイルを先取りした素敵な曲です。

 「タートルズ」の方は、カンもシングルを意識するんだなと確認させられるヒット狙いの逸品です。傑作「タゴ・マゴ」の時期の作品だとは驚いてしまいますが、こんな可愛い曲をやっていたとはカンも一筋縄ではいきません。

 問題は「サイレント・ナイト」です。「きよしこの夜」をアレンジした曲で、「カン」収録のオッフェンバッハの「天国と地獄」と並んで、何だかびっくりです。「リターン」は新メンバーに活躍の場を与えるための曲のようで、これまたカンらしくない。

 全体を聴いてみて、もちろん悪かろうはずはないのですが、カンはやはりアルバムを聴いた方がいいなという、極めて凡庸な感想を持ちました。いつ終わるともしれないセッションから曲を削り出す人たちですから、シングルを企図した楽曲制作はあまり似合いません。

The Singles / Can (2017 Spoon)