ブルース・ギルバートとグラハム・ルイスのドーム・プロジェクトは一応「ドーム3」までで一旦終わりになりました。しかし、1982年に発表された「ウィル・ユー・スピーク・ディス・ワード」が後に「ドーム4」と呼ばれることになり、こちらが最後のドームになりました。

 本作品はノルウェーのインディペンデント・レーベルであるユニトン・レコードのために制作されたアルバムです。ドーム・レコードではないという意味では「3R4」と同じですけれども、後にメジャーとなる4ADの方はドームとはしなかったということでしょうか。

 正確にこのアルバムのことなのかは分かりませんが、ギルバートは、「次のプロジェクトでは、現在のこういった無意識のものを音楽化する行為とは反対に、自分自身を鍛錬し、探求し、すべての細部にわたり、新しい価値を見出そうとするものだ」と語っています。

 「例えばオペラの計画など練っているところだ」と続けていることが引っかかります。というのも、この作品では言葉が大きな役割を果たしているからです。前作では曲名からも通常の言葉を追放した彼らが言葉に戻ってきました。

 一曲目の「トゥー・スピーク」は、♪話すこと。私の言葉を再び回帰させること♪とグラハム・ルイスが繰り返します。二曲目も「歩くこと、走ること」、三曲目はそのダブ版「頭を引っ込めること、飛び込むこと」と、言葉が重要なモチーフになっています。

 ♪決意を固めろ♪とルイスの声がどんよりと響いてきます。原始サウンドに回帰していったルイスとギルバートは、そこで言葉に遭遇したのかもしれません。はずまないラップのようなボーカルはまるで祝詞ないしは呪詛のようです。

 A面全体を占める「トゥー・スピーク」にはゲストが満載です。特筆すべきはヴィンス・クラークです。ヤズーからイレイジャーへと歩を進めたエレクトロニクス使いのクラークがフェアライトと声で参加しています。

 さらに、バイオリン、サックス、ボーカルの3人を加えたセッションとなっており、前作とはかなり雰囲気が違います。作曲のクレジットもギルバートとルイスの他にバイオリンのデヴィッド・ドリンクウォーターに帰せられており、ドームとは一線を画した演奏となっています。

 これに対して、B面に配された5曲は、言葉を中心に構成しているものの、ゲストはサックスのテレンス・リーチのみとなっており、サウンド自体は従来のドームに近い。ただし、モノクロ感は少し薄れ、カラフルなフックの効いた楽曲となっています。

 ギルバートとルイスのドームは正真正銘これが一旦最後となります。この後は別の名義でしばらく活動した後、ワイヤーが復活します。ドームとしてやるべきことはやったという充実感があるのでしょう。

 「ロックでなければ何でもいい」とうそぶいたワイヤーは、ドームの二人による言葉に忠実な実験を見事に成功させ、名作群を残しました。音を音として解放する、その姿勢は今でも有効に機能しており、ドーム作品は輝きを失っていません。

参照:ロック・マガジン41号(1982年)

Dome 4 Will You Speak This Word / Dome (1982 Uniton)

相変わらずドーム関連の動画は見当たらないので、関連する作品をどうぞ。