「ロックバルーンは99」とは何とも脳天気な題名だと思ったものです。しかし、この曲は後に反戦歌のスタンダードとして定着するほどのクレバーな歌詞をもった歌でした。さすがは80年代を代表する大ヒット曲です。

 ネーナは1982年にレコード・デビューした、ボーカルのネーナ・ケルナーを中心とするドイツのバンドです。デビュー・シングルの「夢を見ただけ」もドイツでは大ヒットしましたが、セカンド・シングルの「ロックバルーンは99」は世界的な大ヒットになりました。

 この作品は米国で発売されたデビュー・アルバムです。ドイツ本国でのデビュー作と異なり、米国向けに約半分が英語で歌われています。さらにセカンド・アルバムからのシングル曲なども組み込まれた編集盤になっています。

 そういうわけで、アルバムの原題は「ロックバルーンは99」なのですが、邦題は「ファースト・アメリカ」になっています。PFMもそうでしたが、ヨーロッパ勢の英米進出に当たっては、こんな小細工が必要だという証しのような話です。

 しかし、「ロックバルーンは99」はドイツ語バージョンも米国でそこそこヒットしました。ドイツ語の歌がトップ40に入ったのはこの曲が初めてだということです。外国語を理解しない米国にあっては坂本九と肩を並べる快挙と言えるでしょう。

 ネーナは「ロックバルーンは99」があまりに全世界でヒットしたため、一発屋のように思われがちですが、ドイツ本国では立て続けにヒット曲を放っており、決して一発屋であるわけではありません。後に大復活も遂げますから立派なものです。

 この作品にはデビュー曲「夢を見ただけ」、「水平線が知っている」、「?」、「レッテ・ミッヒ」、の大ヒット曲が収録されています。さらに二作目のアルバムから「?」の他に、哀愁のメロディーをもつ佳曲「ハンギング・オン・ユー」と「海賊にさせて」が選ばれています。

 「象達の国へ」と「不思議の国へ」のエキゾチックに、チープな魅力全開の「魅惑のシネマハウス」を加えてアルバムはほぼ完成です。いずれもフックの効いた80年代ポップス全開の仕様で、とにかく懐かしい。デヴィッド・サンボーンのサックスはミスマッチですが。

 さて、アルバムにはボーナスを含めると3回も「ロックバルーンは99」が収録されています。クラブ・ミックス英語版にドイツ語版、ライブ・エンディング・バージョンです。彼女たちが最初の日本公演で同曲を4回も演奏したという事実を想起させます。

 それだけ「ロックバルーンは99」が突出しているということです。ストーンズのベルリン公演で大量に空に放たれた風船が壁を越えたらどうなるか想像してできた曲だそうで、敵と地続きという緊張した環境におかれた西ドイツならではです。

 逆回転したようなメロディーはやはり秀逸で、ネーナのポップな歌声と80年代ピコピコ・サウンドの合体は世界的なヒットを引き寄せるだけの魅力を放っています。この曲だけのバンドではありませんが、それでもこの曲のバンドには違いありません。

99 Luftballons / Nena (1984 Sony)