邦題は「エノラ・ゲイの悲劇」とされました。エノラ・ゲイに原爆を落とされた日本ですから、こんな題名の曲があれば注目するのは当然のことです。しかも、シングル・ヒットしたこの曲はオーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークのキャリアを代表する曲です。

 エノラ・ゲイは広島にリトル・ボーイと称された原爆を落としたB29に付けられた愛称で、操縦士のお母さんの名前からとられています。歌詞の内容は強烈な皮肉を込めた反戦歌になっていますので、日本人としても納得できるものです。

 しかし、この曲は前作の流れに乗ったとてもポップな曲です。CNNのテーマ曲に採用されたキャッチーな軽い曲ですから、快く思わない人も多い。私としては、イギリス人らしいアイロニーの精神の発露だと捉えておきたいです。

 OMDのセカンド・アルバムは、「エノラ・ゲイの悲劇」が英国でトップ10入りするヒットになったことにも支えられ、アルバム自体も6位にまで上がる大ヒットになりました。「過渡期のアルバム」だと自称するアルバムなので、このヒットは自信になったことでしょう。

 まだ20歳くらいでいきなりメジャー・レーベルと契約を交わし、あれよあれよという間にデビュー作をヒットさせたことを十分に消化できていないまま、その成功を確固たるものにするために作られたのがこのアルバム。過渡期とはそういう意味です。

 アルバムのプロデュースは「メッセージ」をヒットさせたマイク・ハウレットが当たっています。ゴングにもいた才人によるプロダクションは素人っぽかったOMDを一気に大人にしています。OMDの二人も本作ではキラキラ・ポップからの脱却を図っています。

 冒頭に置かれた「エノラ・ゲイの悲劇」を除けば、まるで雰囲気が異なっています。ピコピコとチープな音が響くことはなくなり、全体にメランコリー漂う作風に変化してきました。これにはファクトリーの同輩、ジョイ・ディヴィジョンからの影響もありそうです。

 この頃にはジョイ・ディヴィジョンのフロントマン、イアン・カーチスの自死という事件がありました。OMDはアルバム中の「スタチュー」でイアンのことを歌っています。他の曲でも、一歩間違えばゴシック調になるという、脳天気な前作からは随分異なる雰囲気です。

 インダストリアルな側面も見せており、最後の曲「スタンロウ」は英国最大の精油所のあったスタンロウの工場の音をサンプリングして使用しています。これは字義通りのインダストリアルですが、全体にエレクトロニクスの使い方が重い。

 ジャケットは前作と同様、ピーター・サヴィルによるものです。ただし、今回はスコットランドのスカイ島の風景写真で、ポップさの欠片もありません。サウンドを反映しているわけですが、私にはどうしても前作のポップさが忘れられません。

 アルバム・タイトルはクラフトワークの前身バンドの名前であり、ここでもその影響を隠そうとしない潔さです。ただし、OMDの無邪気さは過去のものとなり、本作を過渡期としてどんどん洗練の度合いを深めていくことになります。ちょっと寂しい気がします。

Organisation / Orchestral Manoeuvres In The Dark (1981 Dindisc)