モノクロームのジャケットはサウンドを過不足なく表しています。ポスト・パンク期のバンドはいずれもジャケットを含めたトータル・アートを目指していますから、この時期、ジャケ買いで失敗したことはほとんどありません。

 パンクからポスト・パンクに至る英国の音楽シーンで重要な役割を果たしたワイヤーが活動を休止すると、バンドは二つに分かれて活動するようになります。その一つがドームです。BCギルバートとGルイスの二人が始めたプロジェクトです。

 ワイヤーを10ccに例えるならば、こちらはゴッドレー&クリームに相当します。より実験的な作風を追及していった二人です。その活動は変幻自在で、さまざまなユニット名を使い分けますが、このドームはその中でも中心となるプロジェクトです。

 ワイヤーが解散ギグを行ったのが1980年2月28日のことでした。その10日後、3月10日にこのアルバムの録音が開始されています。二人の間ではアイデアが暖められていたということが良く分かる日程です。

 アルバム制作に要した時間はわずかに3日。3月10日、16日そして4月1日の3日間しかスタジオ入りしていません。ただし、録音されたテープの断片を最大限活用しているようですから、準備の時間はもう少しかかっているのでしょう。それでもわずか3週間は短い。

 ドームの存在意義は「自然であり続けること」です。この場合、自然にはフリーではなく、スポンテイニャスを使っています。自発的であること、内からの衝動に任せて音を出し、それを編集していくという手法がとられています。

 ギルバートとルイスの二人がほぼ全てを制作しています。ゲストは二人が設立したドーム・レーベルから作品を発表するAMマリアスがボーカルで1曲参加しているのみです。ただし、ワイヤー仲間のロバート・ゴートゥーベッドが一部テープで参加している模様です。

 ワイヤーからは180度方向転換していると紹介されますけれども、断絶を感じるわけではありません。もちろん、ここにはコリン・ニューマンのポップな持ち味は存在しないわけですけれども、ワイヤーの超然とした側面はここに引き継がれています。

 活動休止直後の作品ということで、まだドームとしてのアイデンティティーは確立途上にあります。全部で10曲収録されていますけれども、まとまっているというよりも、一曲一曲が独立した実験の結果であるようです。

 多くの曲に付けられているボーカルは、あえてこなれていないままにしているのでしょう。ややコンセプトが先走っているきらいが無きにしも非ずです。仙人のような音楽をやるにはまだ二人は若く、その生硬な感じがこのファースト・アルバムの魅力です。

 モノクロームなサウンド風景は素材を素材のまま放り出したような佇まいであり、聴く側による脳内編集作業が必要です。喚起されるイメージはさまざまで、体験されるべき音楽とはこのような音楽のことだと思います。

Dome 1 / Dome (1980 Dome)

見つけられませんでした。悪しからず。なのでBBCラジオ・セッションから1曲。