このジャケットは無視して通るわけにはいきません。単純なモノクロ画像ではありませんが、カラーというわけでもありません。隅の方に佇むコリン・ニューマンが連れているのは台車を付けた小さな鯉のぼり。紐がついていますから散歩の途中でしょうか。

 これは医療行為の対象となりそうな佇まいです。アルバムのサウンドと合わせたイメージはシド・バレットかジェイムズ・ブレイクといったあたりでしょう。孤独な魂が演じられていることを感じます。ヒリヒリとした後味が残る見事なジャケットです。

 本作品はコリン・ニューマンの二枚目のソロ・アルバムです。今回は一曲にロバート・ゴートゥーベッドがドラムで参加しているだけで、後の11曲はすべてをニューマン自身が演奏しています。プロデュースも自身、ほぼ完ぺきにソロ・アルバムです。

 前作はワイヤーの4枚目と言ってもおかしくはありませんでしたけれども、今回はそうではありません。少しだけ聴こえるニューマンの声は、ボーカルではなく、マウス・ノイズとクレジットされているくらいですから、ほぼ完全にインストゥルメンタルです。

 架空のサウンドトラック・アルバムとも言われます。ブライアン・イーノのによる「ミュージック・フォー・フィルムズ」が意識されているようです。イーノとニューマンは画家のピーター・シュミットを共通項として親近感を感じていたのではないでしょうか。

 ワイヤーのもう一つの片割れであるギルバート&ルイスもほとんどインストゥルメンタルの作品群を発表していますから、ニューマンはそちらも意識していたことでしょう。ロックに引導を渡したワイヤーを卒業してなおポップなサウンドはやってられない。

 曲はすべて「フィッシュ」と名付けられており、そこにナンバリングが打ってあります。タイトルによってイメージが固定することを避けているわけです。しかし、そのわりには「魚」のイメージが強烈です。陸に上がって息も絶え絶えの魚、水の中で自由に泳ぐ魚。

 しかもジャケットまわりに映る魚は鯉のぼりかブリキ製の金魚のじょうろのような絵柄です。日本的なイメージを喚起するデフォルメされた魚。いくつかの曲で東洋趣味が現れているのはこの魚がもたらしたものかもしれません。

 インストゥルメンタルとは言え、ギルバート&ルイス組に比べると随分カラフルなサウンドです。マイク・ソーンのキーボードによるインプットがない分、ギター以外のサウンドもふんだんに使って、ニューマン自身の姿を刻印しています。

 何やらニューマン自身のための癒しのアルバムのような気がします。必ずしも恵まれていたわけではないワイヤーと、その続編だった前作を経て、心機一転、全くの一人となってぽつりぽつりと曲を紡ぐ。一曲一曲が彼の精神を癒していく。そんな風情です。

 ボートラ収録されたスタジオ作品では、いつになくリラックスしたニューマンの歌声が聴かれます。その路線で進めばワイヤー再結成もなかったでしょう。そちらではなくて、この作品を第二弾として発表したのはニューマンの矜持なのでしょう。

Provisionally Entitled The Singing Fish / Colin Newman (1981 4AD)