これは奇跡の作品です。まずはジャケットが超絶カッコいいです。オリジナルはブルー一色のジャケットにマンホールのようなグリッド模様が打ち抜かれています。切れ目からはオレンジ一色の内袋が覗いていました。シンプルで素晴らしい。

 ファクトリー・レコードのデザイナーだったピーター・サヴィルによるデザインです。コストがかかったため、利益が随分削られてしまったそうで、ピーターは「ブルー・マンデー」と同じ轍を踏みました。懲りない人です。

 そして、またサウンドが素晴らしい。アンディー・マクラスキー曰く、「自分たちだけで音楽を作ることを決めた二人のティーネイジャーが誰かの家の部屋の中で、ばかばかしいほど安っぽい中古機材を使って見様見真似で演奏しているようなもの」です。

 演奏するのは「一本指で奏でるメロディーと単純なコード進行」の曲です。リズムはチープこの上ないリズム・ボックスですし、いかにも高校生が書きそうな歌詞を、可愛らしいメロディーで歌う、そこが大きな魅力です。

 ここを魅力に出来るというのは奇跡以外の何物でもありません。実際、このアルバムからのヒット曲「メッセージ」はシングル用に元ゴングのマイク・ハウレットがプロデュースしていますが、そこにはもうこの奇跡はありません。普通に洗練されたサウンドがあります。

 オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク、略してOMDはポール・ハンフリーズとアンディーの二人を中心とするバンドです。二人は小学校からの友だちだということで、いかにも思春期を思わせる訳の分からないバンド名もそれなら理解できます。

 ちなみに二人はヒトラーズ・アンダーパンツと名乗っていた時期もあるそうです。そんな彼らが本作のプロデュースを務めるチェスター・ヴァレンチノことポール・コリスターを加えた三人でライブをやるようになると、ファクトリーのトニー・ウィルソンが興味を示します。

 ファクトリーから「エレクトリシティー」でデビューすると、ゲイリー・ニューマンのサポートでツアーをまわり、その最中にヴァージン傘下のディンディスクと契約を交わします。その幸運に半信半疑だった彼らは契約金をスタジオ建設に使うという堅実ぶりを発揮します。

 そして制作したのがこのデビュー作です。16歳の頃から4年間書きためてきた曲をここで吐き出した作品になりました。明らかにイーノやノイ、クラフトワークといったエレクトロニクス系のアーティストの影響が見て取れるエレポップ全開の作品です。

 マーティン・ハネットがプロデュースしたファクトリーの「エレクトリシティー」に比べてもアルバム・ヴァージョンはチープな出来になっています。そこがまた素晴らしい。先ほど書いた奇跡がここに現前しています。

 当時の機材の水準から言ってもチープな素人っぽい仕上がりです。若さ全開、むしろ若気の至り全開と言ってよいでしょう。こんなにあっけらかんとした幼さがあふれるサウンドはそうありません。本当に奇跡のような素晴らしいアルバムです。

Orchestral Manoeuvres In The Dark / Orchestral Manoeuvres In The Dark (1980 Dindisc)