ホームカミングスは大学のサークル活動からプロデビューしたバンドです。一足先に卒業するリズム隊の福田穂那美と石田成美がバンド活動を辞める宣言をした際、何とか引き留めることに成功したギターの福富優樹が泣いたというエピソードがあります。

 ほのぼのとしたエピソードですけれども、アルバムを聴いていると泣くのも納得だなあとしみじみと感じました。この四人組によるアンサンブル、特にベース、ドラム、リズム・ギターから生まれる大らかなグルーヴはなかなか得難いものです。大そう気持いいです。

 ホームカミングスのセカンド・アルバムは「セール・オブ・ブロークン・ドリームス」というフレーズから生まれました。福富が自身の「ノートの端っこに何故か大きめに書かれていた」ものを発見したことからアルバムの着想が生まれました。

 自分でもその出自を忘れてしまったフレーズが突然衝撃を与えた、というところに無意識の発露を感じます。書いたその時点で未来が予測されていたのでしょう。滅多にないことでしょうけれども、こういうことってあるなと納得させられる出来事です。

 まずは「ハーツ」というシングルができ、その後、「ひとつの街を舞台にした、壊れてしまった夢についてのいくつかの物語」をアンソロジーのようにひとつのアルバムに仕上げたものがこの作品です。一つのフレーズを起点にする短編集です。

 当然ジャケットのイラストもその重要な一部です。このイラストはホームカミングスと同じく京都を中心に活動しているサヌキナオヤの手になるものです。裏ジャケに描かれた床屋の中の人影を除いてひと気がないのが不気味です。短編の裏テーマ、幽霊にも呼応しています。

 このイラスト、私の世代だとわたせせいぞうや鈴木英人を思い浮かべてしまいます。あまりそのような評が見当たらないことが今回感じたジェネレーション・ギャップの最たるものです。時代は移ろっています。

 サウンドは典型的なギター・ポップです。本人たちはそう言われるのをあまり快く思っていないようですが、他人に紹介する時はギター・ポップ以外に説明のしようがありません。今回、ピアノにも挑戦して幅が広がっていてもギター・ポップです。

 畳野彩加のしゃらっとしたボーカルが飄々とした持ち味で気持ちが良いです。それを先ほども指摘した大らかなグルーヴを感じる演奏が支えます。何よりもこの一体感が素敵です。バンドである必然性を感じます。

 紡がれる物語は英語で書かれているので、ブックレットには訳詞を掲載する手の込みようです。「なんともない毎日から物語を掬い取っていくような感覚」で「こことは違って、いくつもの何かがある」街を描き出したのだそうです。若い感覚が横溢しています。

 ところでこのバンドの英語詞へのこだわりが奈辺から出てくるのか不思議です。歌詞そのものはネイティブでないことが明らかな日本語英語ですし、音符への言葉の乗せ方も英語というよりは日本語のそれです。日本語で歌ってみればいいのに。

Sale Of Broken Dreams / Homecomings (2016 Felicity)