物事を眺める時に、ヘーゲルの弁証法による正反合を俗っぽく適用すると分かりやすいことがままあります。グッド・ミッショナリーズもオールターナティヴTVのここまでの道行の総合と捉えると分かりやすいです。

 オールターナティヴTVは「イメージ・ハズ・クラックト」でパンク的なサウンドを提示しましたが、「ヴァイビング・アップ・ザ・シナイル・マン」にて、一気にアヴァンギャルドなアート作品へと舵を切りました。

 しかし、そのサウンドをもってツアーに出たところ、観客からのブーイングに会い、ついにはモノが飛んできて怪我をする事態に立ち至ります。そこで、マーク・ペリーは両者を統合した形のサウンドに転じ、バンド名もグッド・ミッショナリーズを名乗ることとしました。

 まさに正反合。ちょうど良いサウンドが手に入ることになりました。文字通り怪我の功名と言えるでしょう。しかし、程よくブレンドされたサウンドですから、ツアーでの評判もそこそこでしたけれども、本人にはフラストレーションがたまり、結局、バンドは長続きはしませんでした。

 もう少し詳しく見てみましょう。前作を気に入ったのはザ・ポップ・グループのマネージャーをしていたディック・オデルでした。ディックはザ・ポップ・グループのレコード契約からいくばくかのお金を融通して、彼らをツアーに同行するよう誘いました。

 喜んだ彼らでしたが、スタジオでこそ輝いたサウンドもツアーに出るや否やザ・ポップ・グループを見に来た観客からは総スカンを喰い、ダービーでのライヴでは飛んできた瓶にマークがノックアウトされてしまいます。

 そこでトリオ編成にちゃんとしたドラマーを加え、さらには女声ボーカルを加えた5人組とし、名前もグッド・ミッショナリーズと変えてツアーを続行することにします。これはそこそこ評判が良かったようで、こうしてライヴ・アルバムが発表されるに至りました。

 本作にはザ・ポップ・グループの名曲「シーフ・オブ・ファイヤー」も収録されており、そこにはマーク・スチュワートとサイモン・アンダーウッドも加わっています。そのため、ザ・ポップ・グループの隠れ作品として奇妙な人気を博することにもなりました。

 さらに5月に行われたライヴではスロッビング・グリッスルのジェネシス・P・オーリッジも加わっていたそうで、ボートラ収録された「グッド・ミッショナリー」はそのバージョンではないかと疑っているのですが、どうでしょうか。

 ことほど左様に話題の多い作品で、かつ先ほど書いた通り、サウンドは程よいアヴァンギャルドですからとても聴きやすいために、オールターナティヴTVの音楽史において日本盤も発売された唯一のアルバムとなっています。

 このツアーを終えて、マークが一旦オールターナティヴTVを辞めてしまう気持ちも良く分かります。聴衆との確執と妥協を受け入れるほどにはまだ世間ずれしていないということでしょう。良い作品であるだけに、余計にいたたまれなかった。

Fire From Heaven / The Good Missionaries (1979 Deptford Fun City)