2009年、ミュージック・マガジン誌は創刊40周年を記念して「アルバム・ランキング・ベスト200」なる企画を行いました。1969年から2008年の間に発表された作品の中からオールタイム・ベスト200を決めようという野心的な企画です。

 当然1位はビートルズでしたが、続いてニール・ヤング、トーキング・ヘッズ、スライ&ザ・ファミリー・ストーンとなるところがMM誌らしい。さらにらしさを決定づけたのが堂々5位にランクされたフェラ・クティの「ゾンビ」でした。

 そのことからも分かる通り、フェラ・クティの数々の名曲の中でも国際的に最も知られている曲と言えます。日本盤も比較的早い時期に発売されていますし、アフリカでも英米を始めとする西側諸国でも名作として人気が高いです。

 その理由の一つは1977年2月に起こったナイジェリア軍によるフェラ弾圧事件の引き金の一つがこの曲だったとされていることにあります。すでにフェラのカラクタ共和国は当局の弾圧を受けていましたが、今回は軍隊が動員された次元の違う事件でした。

 実際にはナイジェリア政府が取り組んでいた音楽フェス、フェスタックへのフェラの参加拒否が大きかったようですが、この曲も大きな役割を果たしたでしょうし、国内事情よりもそちらの方が外国にいるものとしては事態がすんなりと飲み込めるというものです。

 「ゾンビ」の内容ですが、ジャケ写からも分かる通り、軍隊を揶揄したものになっています。ゾンビは何も考えずに命令に従うだけだと歌います。兵士のことをゾンビに例えていることは一目瞭然で、ナイジェリア政府を苛立たせたことは想像に難くありません。

 一方で、ガーナを始めとするアフリカの民には大いに人気を博した模様です。多くの国は軍部の影を感じながら政府が運営されていますから、快哉を叫んだ人々が多かった。それだけこの歌詞は普遍的なものです。

 サウンドはいつもよりもテンポが速く、リズムも軽快です。フェラのサックス・ソロが冒頭に置かれており、ツンデ・ウィリアムスのトランペットのソロを経て、典型的なコール&レスポンスのボーカルが始まります。女声コーラスとの掛け合いはこれまた軽妙です。

 キャッチーな掛け声♪ジョロ・ジャラ・ジョロ♪は「左、右、左」という意味で、命令によってゾンビたちが右往左往する様を表現しています。このあたりの分かりやすさもヒットの一因だろうと思います。さすがはフェラです。

 カップリングの「ミスター・フォロー・フォロー」もナイジェリア社会を告発する内容です。こちらは「ゾンビ」に比べると粘っこいリズムを持ったいつものフェラ節です。ホーン陣の使われ方がよりアフロ・ビートらしい。

 ますます脂が乗ってきてパワフルさが増してきています。それ故にやや異彩を放つ「ゾンビ」が生まれ、その軽快さがよりナイジェリア政府を恐れさせたのは間違いないでしょう。フェラ史上欠くことができない必聴盤です。力が漲っています。

Zombie / Fela and Afrika 70 (1976 Coconut)