オールターナティヴTVはロンドン・パンクを語る上で最も重要なバンドの一つだと私は思います。ラモーンズを見て銀行を辞めたマーク・ペリーは「スニッフィン・グルー」というパンク初のファンジンを創刊し、シーンをシーンたらしめました。

 そのマークが始めたバンドがこのオールターナティヴTVです。当初はマーク・Pと名乗っていたマークとアレックス・ノーバディと名乗っていたアレックス・ファーガソンとのデュオで、「ドイツのカンに近く、レゲエのリズムを持った音楽」を始めました。

 デビュー曲は「ラヴ・ライズ・リンプ」、勃起不全を歌った歌で、スニッフィン・グルーにソノシートとして添付されていました。♪触らないで、立たないんだから♪と、何とも言えない哀愁が漂う曲でした。パンクですね。

 しかし、ほどなくペアは解消、本作のラインナップは、マークがボーカル、タイロン・トーマスがギター、デニス・バーンズがベース、ジョン・トウがドラムを担当しています。そしてスクイーズのジュールス・ホランドがゲスト参加しています。ようやく有名人が出てきました。

 このアルバムはいきなりライブで始まります。「オールターナティヴ」と題された9分を超える曲です。彼らのショーでは観客をステージにあげて一言言わせるパフォーマンスがあり、ここではそれを収録しています。3分ですら長いとするパンク時代になかなかできないことです。

 パンクの精神を体現したオールターナティヴTVですが、禁忌をやぶったっことがもう一つあります。それは裏ジャケットに横たわるマークとともにレコード・ジャケットが写っていることです。それがフランク・ザッパやラヴ、キャプテン・ビーフハート、ニール・ヤング他なんです。

 マークの音楽趣味からすると何の不思議もないわけですけれども、古い時代との断絶をことさらに強調するいわゆるパンク精神からすれば、これは異端以外の何物でもありません。こんなところにマークのパンクに対する批判精神が見て取れます。

 流行というものは何でもそうですけれども、パンクもほどなくスタイルに堕してしまい、オールターナティヴな精神とはどんどん距離ができてしまいました。安易に世間に対する怒りを吐き出すことがパンクだと勘違いした若者たちはマークにとって腹立たしかったことでしょう。

 さて、このデビュー作ですけれども、パンク的な表題曲もありますが、ギター・ソロだけからなる「レッド」や、ジュールス・ホランドのきらびやかなピアノをフィーチャーした「ヴィヴァ・ラ・ロックン・ロール」など、さまざまなスタイルの楽曲が並んでいます。

 さらにはフランク・ザッパの「ホワイ・ドンチャ・ドゥー・ミー・ライト」のカバーまであります。ライヴ音源は「オールターナティヴ」の他にも2曲あります。1978年2月7日、マーキーでのライヴということで、バンドのフリー・フォームな演奏が楽しいです。

 演奏も録音も素人的だという意味でパンクそのものです。しかし、パンクとはコンセプトであり、オールターナティヴな精神のあり方です。ここにはそれが詰まっています。これこそがパンクです。最重要バンドだという意味はそこにあります。

The Image Has Cracked / Alternative TV (1978 Deptford Fun City)