原田知世は1982年に角川映画大型新人女優コンテストにて特別賞を受賞して芸能活動を開始しました。14歳の時です。それから35年。「35周年を迎えるにあたって、ファンの皆さんに何かお返しできるものを作りたい」と作られたのがこのアルバムです。

 いかにも周年記念らしく、これまで彼女が歌ってきた歌のセルフ・カバー集となっています。息が長く、しかもコンスタントに活躍してきたアーティストのみに許される形です。あの原田知世が、と思うだけで感慨深いものがあります。

 アルバムの冒頭は、スクリーン・デビュー作となり、自身初の大ヒットともなった「時をかける少女」です。当時、彼女はまだ15歳くらいでした。アイドル歌手全盛時代にあって、薬師丸ひろ子に続く大型アイドル女優の歌は強く記憶に残っています。

 いかにも女優さんの余技といった風情の素人っぽい素直な歌でしたから、まさか彼女がその後35年も歌手活動を続けるなどとは想像もできませんでした。その後の歌手活動の話は聞いていたにも関わらず、こうしてアルバムを聴いている今も意外な感じがします。

 しかも、女優の先輩である薬師丸ひろ子よりも、さらには多くの専業歌手に比べても本格的な歌の世界の探求ですから見上げたものです。女優さんとしても一線で活躍し続けていますし、瑞々しい魅力も失っていない。凄いもんです。

 この作品収録曲を分類すると、まず彼女のセカンド・シングル「ときめきのアクシデント」、言わずと知れた大ヒット「時をかける少女」、松任谷由実提供の「ダンデライオン」、大貫妙子の「地下鉄のザジ」、主演映画「天国にいちばん近い島」を初期のアイドル期とできます。

 続いて「ロマンス」と「愛のロケット」がスウェディッシュ・ポップ期。同曲を収録した1997年発表のアルバム「アイ・クッド・ビー・フリー」はカーディガンズで一世を風靡したトーレ・ヨハンセンのプロデュースを受けてスウェーデンのスタジオで制作されています。

 一連の鈴木慶一とのコラボ作からは「空と糸」が選ばれ、最後に現在まで10年以上も続く伊藤ゴローとの作品「うたかたの恋」と「くちなしの丘」、これで全10曲です。彼女の音楽的な変遷をしっかりと描き、なおかつ現在のスタイルで見事に塗り直しています。

 プロデュースはもちろん伊藤ゴロー。自らをボサノヴァ・ギタリストと称する彼らしいアコースティックでジャジーなアレンジがアルバムを貫いています。とりわけ原田自身のギターによる弾き語りで収録された「くちなしの丘」が光ります。

 「この曲は個人的な想い出と重なるところがあったりもして、人生の中で忘れられない曲のひとつ」で、「不思議なくらい自分の声にあってるんですよね」と原田知世は語っています。アルバムのトリを飾るこの曲がアルバム全体の性格を物語っています。

 「ゴローさんは自然体でリラックスして歌うことを教えてくれました」。その言葉の通り、暑苦しいところが微塵もない、か弱いようにみえて芯の強いしなやかな歌唱です。14歳だった原田知世ももう50代間近。理想的な歳のとり方です。成熟とはこういうことを言うのでしょう。

参照:CDJ 2017/7(村尾泰郎)

Ongaku To Watashi / Tomoyo Harada (2017 ユニバーサル)