「ミュージシャンでいるっていうことの一番大切なことは、音楽を演奏することを好きでいるってことよ。それ以外の理由でやっちゃだめ」。かつてスーザン・テデスキはそう語っています。スーザンとデレクが率いるテデスキ・トラックス・バンドは実に正しいバンドです。

 このアルバムは彼らにとってライブ2作目となります。このバンドのツアーはスタジオ作品のプロモーションのためにあるのではなく、ライブのためのライブです。そして、グレイトフル・デッドと同じようにショウの録音は観客に開放されています。

 そんなバンドですから、このライブ・アルバムは2016年9月3日に行われたライブをほとんどそのまま録音したものになっています。複数のライブからつぎはぎしたりしない。正々堂々の一発勝負です。ライバルは客が録音している自分たちの別のライブです。

 ブックレットには各メンバーの名前と担当楽器に加えて、ツアーを支えた人々がトラック運転手に至るまでクレジットされています。さらに各メンバーの担当楽器はドラムスティックまでメーカー名が書いてあります。どうです。実に正しいバンドです。

 2枚組2時間に及ぶライブ録音は、前作ライブとの重複は一切ありません。オリジナル曲は全部で9曲、3枚のスタジオ作品から選ばれています。そして残りの6曲はカバー曲です。このカバーがまた面白い。

 今年はビートルズの「サージェント・ペッパー」が50周年ということで盛り上がっていますが、そこからジョージ・ハリソンの「ウィズイン・ユー、ウィズアウト・ユー」を選曲しています。ジョージのインドかぶれの一曲です。まさかこれをもってくるとは驚きです。

 デビュー作所収の「ディーズ・ウォールズ」をインド楽器サロードに巨匠アリ・アクバル・カーンの息子アラム・カーンをゲストとして招いて演奏していますから、それと呼応するのでしょう。TTBのライブにスパイスが加わって楽しさ倍増です。

 マニアックな選曲で言えば、マイルス・デイヴィスのジャック・ジョンソン・セッションのアウトテイクだった「アリ」があげられます。ジャズそのものの演奏が素晴らしい。これまたTTBの新しい魅力を見せてくれます。

 ジャズと言えば、もともとジャズ畑からTTBに参加していて、本作でもベースを弾いているティム・ルフェーブルはデヴィッド・ボウイの遺作「★」に大々的に参加しています。バンドの懐の深さが良く分かるエピソードです。

 バンドは12人。それぞれの顔が見えるかのような演奏にはますます磨きがかかっています。デレク・トラックスは1本のギターだけで、チューニングも直すことなく最初から最後まで通すそうで、その羽根が生えたようなと称されるスライド・ギターは神様のようです。

 何のギミックもない、正面から正々堂々とロック・バンドが演奏する。全く正しいです。この圧倒的な正しさの前にはどんな言葉も無用でしょう。ただひたすら彼らの演奏に耳を傾けることで音楽を聴く喜びをかみしめることが正しい聴き方だというものです。

Live From the Fox Oakland / Tedeschi Trucks Band (2017 Fantasy)