これから何回も発表されるザ・フーのラスト・アルバムの皮切りとなるアルバムです。変な話ですけれども、ザ・フーほど解散する解散すると言われてから長く生き永らえたバンドも珍しいです。ここまで結成15年、それ以降の方がずっと長い。

 その中にあって、このアルバムは格別です。日本盤の帯には「悲報。1978年9月7日にキース・ムーンが死んだ。」と書かれているのです。欧米諸国ではこの年の8月、キースの生前に発表されていますが、日本盤は2か月遅れ、死後の発表です。

 今でこそザ・フーは日本でも人気がありますが、当時はこの2か月が物語っている通りの扱いでした。それでも、奇行が多かったキース・ムーンの人気は日本でも高く、ミュージック・ライフ誌を盛んに飾っていたものです。

 ザ・フーの頭脳はもちろんピート・タウンゼントですけれども、日本ではキース人気が高く、いよいよこれをもってザ・フーも解散かと思いました。その最後の作品ということで、皮肉なタイトルとともに何だか特別なアルバムのような気がしました。

 アルバム制作は1977年9月から1978年5月までと長い時間をかけています。難産だった模様です。それが証拠にプロデューサーは当初、前作同様グリン・ジョンズが起用されましたが、後にピートの義弟にあたるジョン・アストリーに代わっています。

 時間がかかった原因はピートの腕の怪我などだそうですが、キース・ムーンの体調も影響していた模様です。破滅的なライフスタイルには磨きがかかり、奇行も増えて、いよいよ危ない状況に陥っていたようです。そして、9月には鎮静剤の大量摂取で亡くなってしまいました。

 その影響はくっきりとサウンドに現れています。象徴するのが「ミュージック・マスト・チェンジ」という曲です。キースは8分の6拍子が叩けずに、結局はドラムレスの曲になってしまっています。世界最高のドラマーのはずだったのに。

 このアルバム制作時、ピートはいまだに途中で放棄されたプロジェクト「ライフハウス」を引きずっており、本作品もその遺構から生まれたと言われています。しかし、ピートの曲だけでは足りず、ジョン・エイントウィッスルの曲が3曲も採用されています。ピートはややこしいです。

 アルバムは全9曲、ザ・フーのアルバムらしい貫禄のハード・ロック・アルバムです。ザ・フーの魅力、ぶんぶん腕が回るハンマー・ギター、刻むシンセサイザー、普通にしゃべっていても力が入っているロジャーのボーカル、大きくうねるグルーヴが全部詰まっています。

 特にロジャー・ダルトリーは充実しています。これまでピートがリードをとる曲も多かったですが、この作品ではジョンが一曲リードをとっている以外はすべてロジャー。シンセちゃらちゃらサウンドはお気に召さなかったようですが、そこは歌でねじ伏せました。

 残念ながらザ・フーの大きな魅力の一つ、キースの手数の多いド迫力のドラムがどうしても精彩を欠いているのですが、それでもこの水準のアルバムに仕上げるのはさすがにザ・フーです。複雑な思いと共にキース・ムーンに哀悼の意を表したいと思います。

Who Are You / The Who (1978 Polydor)