轟音ロックとドローンというのは一見相性が悪そうですけれども、考えてみれば轟音の人々は空間をそれこそ轟音で埋め尽くすわけですから、ドローンと親和性が高いです。どちらも持続音による壁を作っているようなもんです。

 モアンは轟音ロックバンドDMBQのギタリストでありボーカリストである増子真二とベーシストのマキによるユニットです。その二人がここでは轟音ロックではなく、エレクトロニクスを中心とするドローン作品を完成させています。決して驚いてはいけないのでしょう。

 本作品はモアンによる三枚目のアルバムです。日本ドローン界屈指のアーティスト兼エンジニアの畠山地平さんが主宰するホワイト・パディー・マウンテンからのリリースです。驚くべきことにこれが日本国内でのリリースとしては初めてです。

 彼らは海外でまずアルバムを発表しているわけです。昔であれば驚くべき快挙なのですけれども、時代は変わりました。インターネットが世界を覆っている現状では、もはやドローン界には国境などありません。世界はドローンの下で一つ。

 ドローンと簡単に言い切ってしまいましたが、純然たるドローン・サウンドだけで構成されているわけではありません。もともとロックの人らしくギターやヴォイスも使用した多彩なサウンドによる音響空間が現前しています。

 アルバムは連作「水の形」から始まります。ピチョン君の大冒険ではありませんが、子ども向けの図鑑でお馴染みの水の一生をサウンドで表現した作品です。雨だれが溜まって水面が現れ、次第に盛り上がって水塊となり、やがて流れていく。そんな水の形です。

 最初の「ドロップ」はまさに雨が最初はぽつぽつ降りだし、やがては土砂降りになる様子が古典的な電子音で表現されていきます。それは次の「サーフェス」でドローンに至ります。これは具体的な情景を描写していく、いわゆる標題音楽的な展開です。

 この5曲から成る連作をはじめとして、全部で9曲、いずれも具体的なテーマを設定して、電子音、増子の静謐なギター、そして電子化されたマキのこの世ならぬヴォイスが紡がれていきます。基本的にはアンビエントな音響空間が現出しています。

 最後の曲は「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・フィードバックス」と題されており、ギターのフィードバック音を使ったドローン・サウンドが展開されます。ビートルズの名曲をもじったタイトルであることは一目瞭然です。

 DMBQは1980年代末に結成されており、増子のキャリアは長いですから、ビートルズのこのタイトルもごく自然に出てきたのでしょう。私の世代とそれほど変わりません。DMBQの音楽もマキが在籍していたガールズ・バンドの音もいずれも私には分かり易い。

 このアルバムのサウンドもどこか懐かしい気さえします。クラウト・ロックのアシュ・ラ・テンペルを思わせるギターがその筆頭格。サイケデリックという言葉を使ってもよいでしょう。電子音の音色もアナログ的ですし、心地よいアブストラクトを満喫できるアルバムです。

Shapeless Shapes / Moan (2017 White Paddy Mountain)