これは嬉しい発売です。ザッパ先生の数あるバンドの中でも、これまで発表されたことのないセットによる音源がついに陽の目を見たんです。さすがはジョー・トラヴァースです。ヴォールトマイスターとしていい仕事をしています。

 フランク・ザッパはエレクトリック・チェンバー・ミュージックの大作「グランド・ワズー」を発表した頃、1972年10月から12月にかけて、ホーンを中心とした10人編成のバンドを組んでツアーに出ました。

 ツアーではマザーズ・オブ・インヴェンションの名前を使っていたそうですが、あまりにマザーズの面々とのつながりが薄いこともあって、このバンドは一般にプチ・ワズーと呼ばれていました。先生自身も後にその名前を使うようになります。

 馴染みのある顔はトロンボーンのブルース・ファウラーくらいでしょう。ギターのトニー・デュラン、「グランド・ワズー」で大きな役割を果たしていたマルコム・マクナブがこれに次ぎます。リズム隊もあまり見かけない顔です。

 しかし、さすがはザッパ先生のオーディションを潜り抜けたミュージシャンばかりです。まとまりのある素晴らしい演奏が堪能できます。このバンドには先生以外のボーカリストがいません。それにキーボードやパーカッションもない。そこがユニークです。

 収録されている楽曲も後の曲の種になったものもありますけれども、「ファーザー・オブリヴィオン」を除けば本作品が初出です。お宝度が極めて高いことが分かるでしょう。かもし出すグルーヴもユニークで、先生の新しい顔が見えるかのようです。

 さて、本作品はもちろん1972年に行われたライブが音源です。それを1972年から1977年の間にザッパ先生自らがミックスして編集していたものです。ジョーは多くの人のリクエストを受けてプチ・ワズーの音源を探しており、ようやくこれを発見したのだそうです。

 何故にこんな素晴らしい作品が発表されなかったのか。この頃のザッパ先生は多作を極めていた頃ですから、忙しかったというのがその理由なんでしょう。それ以外にあるとすると最後の曲だけ録音が異質な気がするところくらいでしょうか。

 スタント・ギタリストのスティーヴ・ヴァイがライナー・ノーツにて、この作品で初めてフランクの音楽に触れたのだとしたら、「『こんなに多彩で、音楽的で、しかもただ楽しい音楽を聴いたことがないぞ』と頭を掻いている自分を見出すことでしょう」と書いています。

 そして、コアなファンであれば、あまりのザッパ先生の素晴らしさにやはり頭を掻きむしるだろうと述べています。確かにそんな気持ちになりました。お亡くなりになって13年もたつのに、まだこうして新しい発見がある。これは凄いことです。

 後にプチ・ワズーの作品はさらに発表されることになりますが、これが正真正銘の初物です。満載されているギター・ソロも素晴らしく、ホーン陣との掛け合いも楽しい。久しぶりに新作に出会えた気分です。

Imaginary Diseases / Frank Zappa (2006 Zappa)