ジャケットのイラストは当時西海岸で活躍していた日本のイラストレーター、長岡秀星さんの作品です。ラムセス像の足元のエジプト文字の中には「『風林火山』という日本の文字を4回程度隠して描き込んであります。探して見てください」と秀星さんがおっしゃってます。

 CDサイズではとても探せないのが残念ですけれども、内ジャケのイラストを含めてそうした仕掛けが満載です。ともあれ、エジプトと宇宙をモチーフにしたこの見事なイラストはアースのイメージを決定づけました。アーティスト同士のとても幸せな出会いだと思います。

 モーリス・ホワイトは、「これこそが皆に示したかったものなんだ。私たちは惑星として、古の『唯一神』による人生のコンセプトに戻るべきなんだ」とこのイラストを前に嬉しそうに語っています。過不足なくモーリスの世界観を表しているわけです。

 このアルバムでは、何と言っても「宇宙のファンタジー」です。アース・ウィンド・アンド・ファイアーはこの曲で日本でのブレイクを果たしました。私も多くの方と同じく、この曲からの付き合いです。この曲のシングル盤を姉が買ってきたのが私のアースとの出会いでした。

 本国ではさほど大ヒットしたわけでもないこの曲は、特に日本とイタリアで大ヒットしました。ディスコで流行ったそうで、独特のファンタジー・ダンスが踊られたと言いますが、どうなんでしょう。ディスコのリズムとは随分違うファンクなノリだと思いますが。

 そのリズムよりも何よりも、この哀愁漂う演歌調のメロディーが日本人の琴線に触れたのだと思います。当時、ラジオで盛んにかかっていた時に、渋谷陽一さんがそのような発言をされていて、なるほどなと思ったものです。

 この曲を筆頭にこのアルバムのサウンドは乾いたメタリックともいえるピキピキした響きです。アースの特徴ともいえるこのサウンドは、モーリス・ホワイトの発注にエンジニアのジョージ・マッセンバーグが応えたことによるものだそうです。

 当時の米国では黒人音楽をかけるラジオ局がFMにはあまりなくて、AM局が多かったために、AMでもくっきりと音が聞こえるようなサウンドをモーリスは所望しました。それに応えてジョージが高域の分離をくっきりと行い、いわゆるドンシャリ・サウンドにしたということです。

 さらに本作品にはミルトン・ナシメントやエディ・デル・リオ、さらにはエウミール・デオダードといった南米のアーティストが参加しており、「ブラジルの余韻」なる曲まであって、アース・サウンドの魅力の一つ、ラテン・フレイバーが色濃く出ています。

 「太陽の戦士」や「銀河の覇者」といったファンク・チューンも充実していますし、「聖なる愛の歌」や「ビー・エヴァー・ワンダフル」などバラードも輝いています。ステップニーの穴を埋めたトム・トム84ことトム・ワシントンが存分に働いています。

 アルバムとしては円熟と言ってよい出来栄えですけれども、チャート的には3位どまりでした。この作品で世界に羽ばたいたのはよいのですが、本国ではやや陰りが見えてきたのが残念です。とはいえ、日本ではアースと言えばこのアルバムでしょう。鉄板です。

All 'N All / Earth, Wind & Fire (1977 Columbia)