いよいよピラミッドが登場してきました。アース・ウィンド・アンド・ファイアーのリーダー、モーリス・ホワイトはこの頃までにエジプト学と形而上学にのめり込むようになっていました。ここからのアースにはピラミッドは欠かせません。

 前作、前々作の大成功で勢いにのるバンドは、意欲的に新作に取り組みました。ここにスピリチュアル要素が加わって「魂」と名付けたのかと思いましたが、このタイトルには重い意味が込められていました。

 本作品制作途上で、共同制作者のチャールズ・ステップニーがまだ45歳の若さで急死してしまったんです。1976年5月のことです。マイケル・ジャクソンに対するクインシー・ジョーンズのような存在だった彼の早逝はとにかく残念なことです。

 このため、アルバム制作は一時中断することになりましたが、ステップニーがアレンジを手掛けていた曲6曲に新たな曲3曲を加えてなんとか完成しました。新しく加えられた曲の一つが「スピリット」です。アルバム・タイトルでは「魂」、曲は「精霊の詩」と邦題が違います。

 アルバムの献辞はステップニーに捧げられています。旅だった彼の「スピリット」が神に愛で抱かれますように。曲の歌詞も♪私たちのスピリットはあなたと一体♪だと歌っています。アルバム・タイトルの意味は深いです。

 そうした背景があるため、全体に控えめなトーンが伺えますけれども、それもあくまで比較の問題で、ホーンのアレンジを始め、ステップニーが残した遺産が「アース・ウィンド・アンド・ファイアーに火をつけ」ています。

 アルバムからのシングル・ヒットは冒頭の「ゲッタウェイ」です。ビッグ・バンドのホーンが唸る快作です。刻まれるギターも抜群の切れ味ですし、R&Bチャートではトップをとったのも納得するしかありません。

 さらに代表曲としては「サタデイ・ナイト」があげられます。こちらもシングル・ヒットしており、途中で挟まれる♪ロンドン・ブリッジ・イズ・フォーリン・ダウン♪の遊び心も嬉しい軽やかな楽曲です。ボーカル・ハーモニーもいいです。

 アルバム自体も全米1位こそ逃したものの、2位まで上がるヒットとなり、ダブル・プラチナ・アルバムに輝いています。アースの全盛期を飾る一枚として人気も高く、日本でもようやくじわりじわりと話題になってきました。

 本作には前作からクレジットされるようになったいつものホーン陣に加えて、ビッグ・バンド・ホーン、そしてストリングスの奏者が数多く記載されています。こうしたゲストを加えて演奏はますますゴージャスになり、アースらしいジャズ的洗練を伴うファンクが全開です。

 ジャケットには神がかったポーズを決める9人がピラミッドを背景に写っています。徐々に汁気が抜けてからからになりつつあるリズム隊を擁するサウンドを見事に反映するジャケットだと言えます。手に取ることを躊躇させる絵柄ではありますが。

Spirit / Earth, Wind & Fire (1976 Columbia)