ジャケットに写る4人はいずれもまだ20歳前後の若者です。しかもこれが3作目、いかに彼らが早熟のミュージシャンだったかということが分かります。しかも、この風貌とこのサウンド。驚くべきバンドでした。

 フリーの結成は1968年4月のことです。前2作はさほど大きなヒットにはなりませんでしたけれども、彼らのライブを見た方々は虜になったといいますから、ブレイクする素地は十分に出来上がっていました。

 そこに投入したのが、彼らの代表曲「オール・ライト・ナウ」でした。アルバムの先行シングルとして発表されたこの曲は英国では2位、少し遅れてアメリカでも4位となる大ヒットになりました。引っ張られるようにアルバムも英国では2位、米国でもトップ20入りです。

 R&Bに根差した実力派の渋いバンドですから、評論家受けもよかったですし、強固なファンもついていました。ですから、少しでもヒットが出れば即殿堂入りの資格を備えていたわけで、英国ロック史における地位はここで確立しました。

 興味深いことに、ロック史上に残る名曲とされる「オール・ライト・ナウ」ですけれども、後に夭折するギタリストのポール・コゾフは「僕らのことを、この曲で思い出してほしいとは思わないね。本来の僕らはあんな風に浮ついた調子じゃないんだ」と語っています。

 そうなんです。ザ・フーのピート・タウンゼントが「凄い曲だな」と絶賛する名曲ではありますが、このジャケットの佇まいには相応しくありませんし、アルバム中の他の曲とも異なる佇まいの曲で、彼らのサウンドを代表する曲というわけではありません。

 アルバム全体はアンディー・フレイザーのベースとサイモン・カークのドラムによる重く沈み込むようなリズムが貫かれたサウンドが特徴です。そこに二人の天才、ボーカリストのポール・ロジャースとギタリストのポール・コゾフが加わるわけですから凄いです。

 渋谷陽一氏はフリーのリズムを指して、「重く落ち込み、そして決してネバつかないあの独特のリズム」を「ブルースから離反していく過程で」「獲得した」と評しています。黒人音楽に直接影響を受けた世代の音楽に影響を受けた第二世代といえるのでしょう。

 もちろん英国ロック界でも最高峰に位置するポール・ロジャースのソウルフルなボーカルは聴き物ですし、バンド・サウンドに徹するポール・コゾフのギターの新鮮な音も耳を奪います。しかし、それ以上にアンディ・フレイザーのベースが凄いです。

 特に「ミスター・ビッグ」ではもはやベースのソロ演奏状態で、はらわたに響くサウンドは鳥肌ものです。サイモン・カークのドラムにも触れないわけにはいかなくなりました。とにかく四人とも力量もあればアンサンブルもいい。奇跡のバンドでした。

 繰り返しますが、弱冠20歳前後です。半世紀近く前のサウンドであることを思い出して初めて得心がいった気になります。それほど渋くて熱い作品です。ブリティッシュ・ロックを語る時になくてはならないバンドの決して避けては通れない傑作です。

Fire and Water / Free (1970 Island)