ゴングの「ラジオ・ノーム・インヴィジブル」三部作のトリを飾る名盤です。ジャケットに描かれているのはマヤ文明のピラミッドです。物語を記したインサートにはヒンズー教の聖なる文字オーム。聖なるものが溢れかえっています。

 物語そのものはいよいよ大団円を迎えます。けれども、結局は理想を手にした後に疑問が百出して悩めるままに終わるという構造になっています。そして今回は前作に比べると物語に動きがあり、その分、サウンドも大きな展開で躍動感にあふれています。

 物語を追いかけるのはしんどいのですが、結論となる決め台詞を覚えておけばよいでしょう。♪ゴング・イズ・ワン・アンド・ワン・イズ・ユー♪です。自我と世界が溶融していくようなメッセージだと考えてもよさそうです。

 インサートには「ラジオ・ノーム・インヴィジブル」三部作全体が総天然色イラスト入りの本として出版される予定だと書いてあります。そこには写真や索引もついていて、惑星ゴングの神話について知りたいことが全てあるとなっています。出版されたんでしょうか?

 ところで、三部作の中ではやはり本作品の評価が最も高いようです。私も一番良く聴きました。三部作のトリを飾るだけあって、サウンドの練られ方が素晴らしいです。前作がトリップ感満載だったのに対し、本作はプログレ感満載です。

 対の言葉になっていませんが、曲の展開がプログレ的なんです。曲数も前作の半分ですから、きっちりと構築されており、楽器のアンサンブルも際立っています。安心して聴けるジャズ・ロックです。これぞカンタベリー・サウンドです。

 メンバーは前作とほとんど同じで、中心となる7人はますます演奏に脂が乗ってきました。シンセもギターもスペースを感じさせるものの、前作よりは地上に近いところにあります。舞台は何と言っても地球ですから。

 とりわけB面が素晴らしい。短い「秘められた謎」に続く二曲の大作「エヴリウェア島」と「永遠の旅」は圧巻です。「エヴリウェア島」の執拗なベース・ラインは、以前にも聴いた気がしますが、トリップに誘う凄味があります。

 そして「永遠の旅」は大団円としてきっちりとけじめをつけて終わるのではなく、謎を余韻としてじくじくと終わっていきます。デヴィッド・アレンの企みはこうしたところにはっきり表れてきます。見事に曲想が自由です。

 ここまで充実した疾走感あふれるジャズ・ロック・サウンドを完成させ、前途洋々に見えた彼らでしたが、まもなく空中分解します。デヴィッドとジリ・スマイス夫妻に加えて、スティーヴ・ヒレッジとティム・ブレイクが脱退してしまいます。傑作を作って未練がなくなったのでしょう。

 精神的なリーダーだったアレン夫妻に加え、スペース・トリップ・ミュージックの要だった二人が脱退してしまえば、もはやゴングでもないわけですが、ゴングはピエール・ムーランを軸に存続していきます。カンタベリーの盟友ソフト・マシーン的な展開です。運命でしょうか。

You / Gong (1974 Virgin)