英国の暗闇の天使バウハウスは、米国でのヒットとは全く無縁でした。しかし、バウハウスから派生したラブ・アンド・ロケッツはこの作品からのシングル「ソー・アライブ」を全米3位にチャートインさせました。アルバム自体も14位と大ヒットです。

 しかも、バウハウスのフロントマンだったピーター・マーフィーは不在です。バウハウスからピーターを除いた三人によるバンドがこの大ヒットを生み出したわけです。世の中面白いもんだなあとしみじみとお茶をすすったことを覚えています。

 ラブ・アンド・ロケッツは、ベースのデヴィッドJ、ギターのダニエル・アッシュ、ドラムのケヴィン・ハスキンスによるバンドです。リード・ボーカルはデヴィッドとダニエルが分け合っており、二人の方向性の違いがバンドに奥行きをもたらしています。

 ちなみにデヴィッドとケヴィンは兄弟です。ケヴィンの距離感は面白くて、デヴィッドとダニエルがそれぞれソロを制作する時には、ケヴィンは大体ダニエルの方につきます。やはり弟としてはどこかに兄に反抗する気持ちがあるのでしょうか。

 ラブ・アンド・ロケッツのデビュー作は1985年に発表されており、本作が実は4作目になります。4作目にして初のセルフ・タイトルです。前作発表後に長いアメリカ・ツアーに出た彼らが自信をもって取り組んだことが表れています。

 カレッジ・サーキットを中心に周った模様ですが、そこで手応えを感じていたのでしょう。その当時はR.E.Mがブレイクした時期と重なります。グランジを予感させつつ、カレッジを中心に英国的な音楽が徘徊していた頃です。ラブ・アンド・ロケッツがまさにその一つ。

 サウンド面では、ロックン・ロールなデヴィッドJと、サイケデリックなダニエル・アッシュの二人が拮抗しています。3枚目までは共同で曲を書くのが基本だったようですが、ここではレノン・マッカートニー状態です。自分の曲は自分で歌う。

 その歌はピーター・マーフィーとは大いに異なります。スター・ボーカリストではなく、あくまで楽器弾きが歌っていますよ、というジョイ・ディヴィジョンからニュー・オーダーへの流れとシンクロするようなボーカルです。楽器の一部のようです。

 ロックンロールもサイケデリックも決して行き過ぎてはおらず、程よいポップな意匠をまとっています。AORと評している人もいるほどです。英国的であり、米国カレッジ的でもある。不思議なサウンドが多くのファンを獲得しました。

 シングルで大ヒットした「ソー・アライブ」も控えめな渋い楽曲です。アッシュらしいグラム的な、まるでTレックス・トリビュートな曲なので、全米3位には驚きました。地味と言えば地味ですけれども、緩いリズムとボーカルがたまりません。

 ジャケットはスピロス・ホレミスという視覚イリュージョンも手掛けるアーティストの「オプティカル・アンド・ジオメトリカル・パターンズ・アンド・デザインズ」という本から採られています。バンド名をコミックから採った彼ららしい超然とした感覚です。

Love and Rockets / Love and Rockets (1989 Beggars Banquet)