前作から半年で発表された「ラジオ・ノーム・インヴィジブル」第二部です。今回は物語を記したブックレットが付けられています。最初でも最後でもなく、三部作の真ん中でのブックレット封入です。全体の構想は予めデヴィッド・アレンの頭にあったということでしょう。

 物語はぐしゃぐしゃになってきていて、追っていくのがどんどん面倒臭くなってきました。しかし、ブックレットには登場人物紹介や用語集が載せられており、そこだけ見ていても大体のことは分かるようになっています。大変親切な仕様です。

 アレンは本作の四半世紀後に大鷹俊一氏によるインタビューにて、「今考えると笑っちゃうというか、ね。ホントに自分たちは100%正しいと信じてやってたことなんだけど、今考えると何であんなことを信じてやってたんだろうという部分がすごくあるな」と語っています。

 この発言には随分救われます。否定しているわけではなくて、若気の至りを愛おしく振り返る目線です。決して無駄なことでも意味がないことでもないけれど、今考えると笑ってしまう。否定も肯定もしない。

 もちろん、音楽そのものは笑っちゃうような質のものではありません。カンタベリー系プログレッシブ・ロックのうち、トリップ系ともいえる一群の代表作の一つと言ってもよいかもしれません。若気の至りは往々にして素晴らしい作品を生むものです。

 三部作の真ん中となる本作は三部の中でもトリップ感が強いです。前作よりは長いとは言え、45分に14曲を詰め込んでいることから分かるように、各楽曲は曲としてまとめようというよりも、アイデアを断片のまま提示したような姿になっています。

 ティム・ブレイクのシンセによるコズミック・サウンドを軸に、スティーヴ・ヒレッジのスペース・ギターやディディエ・マレーブのサックスとフルート、ジリ・スマイスのウィスパーが否応なしにサイケデリック・スペース・サウンドを展開していきます。

 リズム隊は前作から入れ替わり、ドラムにピエール・ムーラン、ベースにマイク・ハウレットという布陣です。二人ともここが実質的なキャリアの始点ですけれども、さすがにアレンはお目が高いとしか言いようがありません。強力なリズム隊です。

 こんな腕達者な面々がアレンによる曲想を実際の音にしていきます。例えば、「どうやってヤルの?」という曲では、物語にバリ島が出てくるので、お約束のガムラン風味が加えられています。曲作りの現場の雰囲気が推し量られるというものです。

 スペースを持ち出すとどうしてもトリップ感が強まります。語られる物語はヒッピー時代にピン止めされていますが、トリップ・サウンドはクラブ・ミュージックとの親和性が高く、意外と現代的であることが分かります。素材としてそのまま使えそうです。

 ゴングのこの作品が売れたのかどうかは誰も何も語ってくれません。ヒットチャートとは無縁でありながら、人々に愛され続けるプログレッシブ・ロックの典型的な作品です。ある意味ではとてもカルトな作品です。

Angels Egg / Gong (1973 Virgin)