「ラジオ・ノーム・インヴィジブル」、邦訳では「透明な妖精のテレパシー」は、ゴングの始めた「壮大なスペース・ファンタジー」です。舞台は違えど、ここは「指輪物語」を思い出さずにはいられません。英国人は本当にファンタジーが好きです。

 もっともゴングのリーダーであるデヴィッド・アレンはオーストラリア人です。裕福な家庭に育ったアレンは10代で作家ジャック・ケルアックに夢中になり、その影響をもろに受けて、路上に出ます。ヨーロッパを放浪したアレンが行き着いた先が英国のカンタベリーでした。

 ロバート・ワイアットの母親による下宿屋に住み着いた彼こそが、リーダー格としてソフト・マシーンを結成し、いわゆるカンタベリー・サウンドの元祖となった人です。ただし、演奏旅行で国外に出ると、英国に再入国を拒否されてしまい、ソフツからは脱退する羽目になりました。

 そのアレンが結成した新たなバンドがゴングです。パリで活躍した後、英国再入国も許可が出たようで、本作品は英国ヴァージン・レコードから発表された通算3作目のアルバムです。冒頭で書いた通り、「ラジオ・ノーム・インヴィジブル」第一弾です。

 ラジオ・ノーム・インヴィジブル、すなわち見えない電波の精は、惑星ゴングから送られてくる海賊ラジオのことで、ティーポット号から送信されています。このティーポット号はポット頭の妖精をいっぱい乗せて、チベットに着陸します。

 ジャケットの内側に記載されている物語は、こんな風に始まっています。結局のところ何だかよく分からない話なのですが、ジャケットのイラストを眺めていると、わりと腑に落ちてくるから不思議です。やはり視覚は重要です。

 全ての楽曲もこの物語を構成しています。歌詞はもちろんのこと、サウンド面でもチベット風味が出てきたり、ウィスパーする魔女が出てきたりと、具体的な物語が語られていきます。コンセプト・アルバムであるわけです。

 こうした建付けで演奏されていくのは、いわゆるカンタベリー・サウンドの特徴である、ジャズ・ロック的なプログレ・サウンドです。元祖カンタベリー男なだけに、大きな求心力をもつアレンの元には達者なミュージシャンが集っています。

 後にソロで大成功するスティーヴ・ヒレッジを始め、アレンのパートナーであるジリ・スマイス、シンセ男ティム・ブレイク、管楽器のディディエ・マレーヴ、元マグマのフランシス・モーズなど、頻繁にメンバーが交代するゴングでも屈指のラインナップが揃っています。

 私は特にマレーヴのサックスとモーズのベースが好きです。彼らの想像力溢れるプレイがしっかりと生かされたトータルな音作りが素晴らしいです。プロデュースはストーンズやヤードバーズとの関りが有名なジョルジョ・ゴメルスキー。カンタベリーでもいい仕事しています。

 ♪アイ・アム・ユー・アー・ウィー・アー・クレイジー♪という歌詞が耳に残ります。ユーモアに満ちていながら、けして中途半端ではなく、徹底して隅々まで物語を攻め立てていくゴングの完成度の高さはこのアルバムでいかんなく発揮されています。ある意味クレイジーです。

Flying Teapot / Gong (1973 Virgin)