グラクソは現在ではグラクソスミスクラインとして知られる英国の製薬会社の名前です。その企業名をバンド名にするとはいかにもパンク/ニュー・ウェイブ時代の空気を反映しています。これだけである種のアティテュードを示していると言ってよいでしょう。

 グラクソ・ベイビーズは1977年暮れに結成されており、約1年後にはEPを発表します。これがBBCのジョン・ピールの目に留まり、BBC向けのセッションを行うに至ります。さすがはジョン・ピールです。どんどん若者にチャンスを与えます。

 こうして世に出た彼らは順調にアルバム制作に取り掛かります。しかし、ここでボーカリストのロブ・チャップマンが脱退するという事件が起こります。よくある方向性の違いということです。このため、アルバム制作は仕切り直しとなります。

 仕切り直すとポップに向かうかアヴァンギャルドに向かうかどちらかになりがちですが、グラクソ・ベイビーズは後者、より実験的なサウンドに向かいます。ボーカリスト不在ですから、基本はインストゥルメンタル。実験がしやすい環境です。

 結果として出来上がったのがこのアルバムです。「ディスコまで9か月」とはいかにも皮肉なタイトルですけれども、ダンスは常に彼らのテーマとしてあったと思われますから、本人たちは皮肉のつもりはないのかもしれません。

 ここで聴かれるサウンドはとてもクールな表情をしていますが、とても肉体的でもあります。ダブの手法を使い、「ファンクとインダストリアルの融合」による音響追求型のサウンドが実現しています。どうしてもザ・ポップ・グループを思い出してしまいます。

 作品に添えられた帯に、「同じくブリストルの兄弟バンドPOPGROUPと並びその過激な実験性が話題を呼んだ超問題作 ファンクとインダストリアルの融合がいま甦る。」と書かれている通りです。この両者はどうしてもかぶってしまいます。

 そこがグラクソにとっては不幸な出来事でした。ザ・ポップ・グループとの一番の相違はボーカリストの不在なのですが、これが訴求力としては大きな差になって表れてしまいました。交流の深い両者ですけれども、知名度には雲泥の差があります。

 このアルバムが完成して発表された頃にはバンドは消滅し、中心メンバー3人がザ・ポップ・グループのジョン・ワディントン他を加えてマキシマム・ジョイが結成されます。それなのに、このバンドはザ・ポップ・グループの派生バンドと言われてしまいます。

 両者を比べてみると、グラクソの方はサックス奏者トニー・ラフターのジャズ寄りのプレイが大きな特徴になっていますし、インストゥルメンタル中心のサウンドは、ザ・ポップ・グループの熱いボーカルとは明らかに一線を画しています。

 しかし、ボーカリスト脱退はバンドの求心力も殺いでしまったのでしょう。何とか仕上げたアルバムにはこれが最後のアルバムとなりそうな空気が漂っており、その終末観が大きな魅力となっているという面白い作品になっています。

Nine Months To The Disco / Glaxo Babies (1980 Heartbeat)