ジム・モリソンは1971年7月、パリで亡くなりました。わずかに享年27歳です。70歳を超えて現役のロッカーがいる今となっては、27歳なんてまだまだほんのひよっこに過ぎませんが、当時のロック界では十分な成熟年齢でした。とはいえ、やはり若すぎます。

 この作品は、結果的にジム・モリソンが在籍するドアーズの最後の作品となってしまいました。これまでプロデューサーとしてドアーズを引っ張ってきたポール・ロスチャイルドと決別し、エンジニアのブルース・ボトニックとバンドによる初プロデュース作品だったのに。

 ジム・モリソンはポップ・スターとしての期待される自分像とアーティストとしての自画像との間で大いに葛藤した人です。後者の方角からは、詩人としての評価を希求することとなります。実際、この頃には詩集を出版し、これが大いに高い評価を得ています。

 そのことから、バンドへの意欲を無くしていたと言われることも多いですけれども、この作品を聴いていると、そんなことはなさそうです。そうであれば、こんなに溌剌とした作品ができるわけがないと思います。

 ドアーズには正式メンバーとしてベーシストがいません。デビュー作ではレイ・マンザレクがキーボード・ベースを弾いていましたが、それ以降はゲストに任せていました。本作もゲスト扱いではありますが、これまで以上にメンバーに近い扱いになっています。

 それにリズム・ギタリストを加えていて、メンバー4人+2人の6人バンドとなっています。そのため、それ以上人手を借りる必要もなく、これまで以上にバンド感が強くなっています。本作はほとんどの曲が一発録りだそうで、それもこの布陣ならではです。

 ファーストとセカンドで描き出した黙示録的な世界は彼らを覆っていた霧の深さをそのまま表現した稀有なものでした。しかし、恐らくはそのまま進むことは困難だったことでしょう。あんな作品は奇跡のようなものです。

 案の定、その後のドアーズの道行きは紆余曲折を経ます。「ソフト・パレード」から「モリソン・ホテル」はその曲折を如実に示しています。そうして、ようやくたどり着いたのがこの作品です。前作の方向性をより突き詰めてスタイルを完成させたと言えます。

 ブルースに根差した、ずしりと響く重いロックを基調に、もう一つの世界に通じる想像力豊かな歌を聴かせるスタイルは、多少の変化を交えつつも、このままストーンズのように20年、30年と続いて行ってもおかしくないものでした。

 その意味では、モリソンの夭折は本当に惜しいことでした。本作では、ロビー・クリーガーのギターもレイ・マンザレクのキーボードもジョン・デンズモアのドラムも格段の落ち着きを見せてていて、見事に成熟していますから、なおのことです。

 最後の曲、「ライダーズ・オン・ザ・ストーム」は7分強に及ぶ大作です。力強いリズム・セクションに乗せて、迫力の増したジム・モリソンの歌唱とレイ・マンザレクのキーボードがじっとりと踊ります。恐ろしいまでの傑作でした。

L.A. Woman / The Doors (1971 Elektra)