フィリー・ソウルとはどういう音楽でしょうかと尋ねられたとしたら、このアルバムを聴かせればいいです。典型的なフィリー・ソウル・サウンドが堪能できること請け合いです。ただし、ジャケットはフィリー・ソウルの典型ではありません。そこはちょっと残念です。

 フィリー・ソウルは1970年代のフィラデルフィアから配信されたソウル・ミュージックです。レーベルとしては、ケニー・ギャンブルとリオン・ハフによって設立されたフィラデルフィア・インターナショナル(PIR)、スタジオはシグマ・サウンド・スタジオがその中心でした。

 オージェイズはPIRの代表的なアーティストです。彼らは1963年にデビューしたコーラス・グループで、そのメンバーは増減がありますが、苦節10年近くを経てPIRで活動するこの頃には3人組となっていました。

 この作品は、オージェイズがPIRに残した5枚目のスタジオ・アルバムです。PIRレーベル自身にとって最初のヒットとなった「裏切り者のテーマ~バックスタバーズ」以降、「シップ・アホイ」などの代表作をヒットさせて乗りに乗っている時期の作品だと言えます。

 全8曲中6曲はレーベル主のギャンブル=ハフが曲を書いてプロデュースもしています。残り二曲もレーベル所属のソングライターの手になりますから、まさにPIRの申し子であると言えます。録音はもちろんシグマ・サウンド・スタジオです。

 残念ながらバックを務めるミュージシャンのクレジットはありませんけれども、シグマ・サウンド・スタジオのハウス・ミュージシャンたちのサウンドの結晶であることは間違いありません。何とも言えないエレガントで洗練されたサウンドは素晴らしいの一言です。

 オージェイズのリード・ボーカルはエディ・リヴァートが務めており、コーラスをウォルター・ウィリアムスとウィリアム・パウエルで脇を固めるスタイルです。もちろん素晴らしい歌手ですけれども、三人とも天才というわけではありません。

 恐らくはそこがよかったのでしょう。その分、グループのバランスの良さは絶品で、そこに彼らの活動の長さの秘訣があるのだと思います。フィリー・サウンドとの相性も抜群で、聴いていると気持ちが良いことこの上ありません。

 アルバムはシングル・カットされた「メッセージ・イン・アワ・ミュージック」で始まります。♪シュビドゥビ♪とドゥーワップで始まると、フィリー・ソウルの特徴となるストリングスがキャンバスの下地となって疾走するサウンドが全開となります。ボーカルもばっちり決まっています。

 「ダーリン・ダーリン・ベイビー」や「アイ・スウェア・アイ・ラヴ・ノー・ワン・バット・ユー」など後にヒップホップ勢にサンプリングされる曲も勢いがあり、まさにオージェイズは絶頂を迎えていました。このアルバムを最後にパウエルが病気で他界してしまったのが残念です。

 ジャケットは「音楽は人間が手にした最初のコミュニケーション手段である」というギャンブル=ハフのメッセージを体現している模様です。こうしたメッセージ性もオージェイズの特徴の一つです。音楽は平和、愛、智慧、理解、団結を訴えるメディアなのです。

Message In The Music / The O'Jays (1976 Philadelphia International)