A面には「ハード・ロック・カフェ」、B面には「モリソン・ホテル」というタイトルが付けられています。どちらも実在していて、ジャケット表にはホテル、裏にはカフェの写真が写っています。面白い趣向です。

 カフェはかの有名なハード・ロック・カフェとは直接関係ありませんが、どうやらこのジャケットを見て名付けられたらしいですから、その限りでは大いに関係があることになります。ドアーズの数多い伝説の中ではとても微笑ましいものの一つです。

 前作は制作に無暗に時間と費用がかかった割には評論家受けは最悪でした。その反動からでしょう、本作品はブルース寄りのサウンドになり、彼らの原点に立ち返ったサウンドであると好意的な評価を獲得しました。

 シングル・ヒットにこそ恵まれませんでしたけれども、アルバムは全米はもちろんのこと、再び英国でもヒットしました。前作からはわずか半年強。この当時は特に珍しいわけではありませんが、それでもさすがに多作は多作です。

 ジム・モリソンは公衆の面前で露出に及んだとして逮捕され、有罪判決を受けたのが1969年4月のことでした。前作の前ですけれども、前作と今作と並べてみても、とりたててそのことによる変化はみられません。しょぼくれても開き直ってもいない。

 しかし、モリソン自身は必ずしも落ち着いた状態にあったわけでもないようですし、バンド自身のダメージは相当なものがあったのだろうと思います。そんな状態でも作品にはさして影響は出ておらず、むしろ音楽的な方向性の模索に忙しい様子です。そこがいいです。

 前作とは異なり、モリソンの声は再び少し荒れ気味の生の迫力に満ち溢れています。冒頭の「ロードハウス・ブルース」は彼らの代表曲の一つともなっていく曲で、いきなりモリソンの凄味を滲ませてきます。

 続く「太陽を待ちながら」は同タイトルの三枚目を制作する際のセッションにて録音されていた曲です。タイトル・トラックなのにこっちにある方が座りがよいというのも面白いものです。仕上げ方は本作ならではですから。

 昔の曲はもう一曲「インディアン・サマー」があり、こちらはデビュー作制作時のものです。クリーガーのギターがちょっと「ジ・エンド」しています。いかにも当時のセッションらしい楽曲で、これを並べて違和感がないのが本作の特徴でしょう。

 前作のようにストリングスやブラスを多用して作り込んだ作品にするのではなく、クリーガーのギターが大活躍する、ブルースに根差したロック・バンドのストレートな作品に仕上げています。大曲もなく、きわめて気持ちのよいアルバムです。

 露出事件でまた新たなジム・モリソン像を作り上げてしまったモリソンです。苦悩のラビリンスは深まるばかり。それを吹っ切るかのようなブルース・アルバムは、より深みを増してきました。ハード・ロック・カフェの名にふさわしいアルバムです。

Morrison Hotel / The Doors (1970 Elektra)