ドアーズの全アルバムを対象にした人気投票において、この作品は第7位にランクされていました。全部で7枚なので、要するに最下位ということです。ドアーズの全アルバムの中で最も人気のないアルバムです。

 とはいえ、米国ではすでにトップ・バンドでしたから、この作品も堂々6位にチャート・インしていますし、先行シングルの「タッチ・ミー」もトップ10ヒットを記録しています。英国ではさほど売れなかったそうですが、リアルタイムでは人気アルバムだったわけです。

 前作までのサウンドとの相違は明らかです。ブラス・セクションやストリングスがフィーチャーされているわけですから、誰が聴いても分かります。これまではほぼ4人とベーシストだけでやってきましたから、この違いは大きいです。

 どうやらプロデューサーのポール・ロスチャイルドの進言だそうです。ロック・バンドの辿りやすい道のりだと言えますから、さほど突飛な感じはしませんが、カルトな側面も持ち合わせているドアーズなので、賛否が巻き起こったことでしょう。

 もう一つ大きく異なるのは、ジム・モリソンの声です。まるで晩年のエルヴィスのようにも聴こえますし、私はふとザ・スミスのモリッシーを思い出しました。太いながらも滑らかなボーカルが流れてきます。明らかに録り方が異なります。

 アルバム制作までの期間、ドアーズはツアーに明け暮れていたため、じっくりと作曲する時間もなかったようですし、ジム・モリソンには問題行動が目立って来ていた時期だということで、以前にましてレイ・マンザレクが制作を引っ張った模様です。

 そこにロスチャイルドの進言によるサウンドの変化が重なるわけですから、これまでのアルバムと感触が異なることは当然と言えば当然です。そうした変化はドアーズ・ファンが待望していたものとは大きく異なったようです。

 一言で言えばドアーズらしくないアルバムです。ネット上でも好意的なレビューをほとんど見かけません。この路線がさらに追及されれば別だったでしょうが、次のアルバムは原点回帰のブルース・アルバムなので、このアルバムの特異さが際立ってしまいました。

 とはいえ、ストリングスやホーンによって倍増したポップさには捨てがたい魅力があります。シングル・カットされた「ウィッシュフル・シンフル」などは、らしくはないものの曲はなかなかいいです。他の曲もそれなりに耳を惹きつけます。

 最後のタイトル曲は大曲復活です。この10分弱の絵巻物にはこれまでの大曲にあった禍々しさはありません。アルバムの他の楽曲ともさほど地続きではありませんし、気合が入っているんだかいないんだかわからない妙な曲です。

 発表当時はセンセーションを巻き起こしたのだそうです。ドアーズ像に変更を強いる作品だったからでしょう。このアルバムがあるとなしとでは、ドアーズ像が異なります。らしくないアルバムだとあらかじめ観念しておけば、なかなか楽しいアルバムです。

The Soft Parade / The Doors (1989 Elektra)