フェラ・クティのアルバムのジャケットの多くを描いているのはガリオク・レミというアーティストです。彼の数多い作品の中でもこのアルバムのアートワークは傑作の名をほしいままにしています。デザインも素晴らしいですし、特に色合いが美しい。

 ジャケットには1975年8月と書かれていますので、恐らくは1975年の発表でしょう。諸説あるようで1976年と紹介されることも多いようです。フェラ・クティの極めて多産な時期のアルバムであることは間違いありません。

 クレジットは若干混乱していて、表ジャケットにはフェラ&アフリカ70と書かれており、レーベルにはフェラ・アニクラポ・クティ、プロデュースのクレジットにはフェラ・ランサム・クティとあります。ちょうどランサムからアニクラポへの改名の時期だったのでしょう。

 1975年8月と言えば、フェラとナイジェリア政府との戦いがしばし休戦になった時期です。7月にクーデターで誕生したモハメド政権で昇進したユスフ警視総監が「フェラは犯罪者ではなくアーティストである」と公言し、攻撃の手がやんだのです。

 この状況は翌年にオバサンジョ政権が誕生するまでの短い期間に過ぎなかったわけですけれども、ともあれ、フェラは音楽に専念できる環境にあったことになります。多産にもなろうというものです。

 さて、アルバムの1曲目は「モンキー・バナナ」です。アルバムのタイトル「猿のように飛ぶ前にバナナをよこせ」というもので、それを簡略化した曲名です。猿のように働かされるのなら、せめてちゃんとした報酬をよこせ、という含意です。

 ナイジェリアの労働者たちに雇用者からの正当な報酬と、政府からの社会保障を要求すべく団結せよと呼びかける曲で、いかにもフェラ・クティらしい正面からの堂々とした主張です。グローバリゼーションの進んだ現代には世界中で当てはまる主張です。

 いつものようにA面全部を占める大曲です。ダークなベースに導かれて、テナー・ギターがミニマルなフレーズを繰り返します。全体に重いリズムであるとともに、ホーン陣がいつもよりもぶっとい音を出しています。ここら辺りが特徴的です。

 B面は「センス・ワイズネス」と題されており、こちらは「ジョニー・ジャスト・ドロップ」と同様にいわゆるビーン・トゥ、外国かぶれのナイジェリア人を揶揄した曲です。外国の中には日本も入っているところが嬉しいです。変な話ですが。

 外国に行ってくると自分のルーツを忘れて、母国の悪口ばかり言うようになるのは日本人にもありがちな話です。フェラの主張は時代も場所も超えて響いてきます。世の中に進歩がないということの表れでしょう。

 この曲ではパーカッションが特徴的です。ティンパニーのような響きの太鼓を使うことは珍しいのではないでしょうか。切っ先鋭いアフロ・ビートに絡むしっぽの長い太鼓の音は新鮮です。こうしてちょっと耳を奪うのもフェラの余裕かもしれません。

Before I Jump Like Monkey Give Me Bananas / Fela & Africa 70 (1975 Coconut)