「『ザ・ジョーカー』以来3年の沈黙を続けてきたロックの巨人スティーヴ・ミラーが全精力を結集した最新盤!」の登場でした。前作が8作目にして初めてのトップ10入りを果たしたにも係わらず、スティーヴはその後ツアーにも出ずに3年間も沈黙しました。

 この間、スティーヴはレコード会社と再交渉してアルバムの制作権を自らの手に収めると、自身の出版管理会社を設立、ホーム・スタジオも作って創作環境を整えました。持ち前のマネジメント能力の高さを遺憾なく発揮したわけです。

 そして満を持して発表したアルバムがこの「鷲の爪」です。この作品からはまず「テイク・ザ・マネー・アンド・ラン」を先行シングルとして発表、惜しくもトップ10を逃しましたが、次の「ロックン・ミー」が見事に全米1位を獲得します。

 しかし、日本では3枚目のシングル「フライ・ライク・アン・イーグル」が圧倒的に有名です。全米2位の大ヒットではありますが、アメリカではスティーヴ・ミラーらしいロック・サウンドが展開する「ロックン・ミー」の方が人気が高いです。

 シンセがシャワシャワする「スペース・イントロ」から間髪を入れずに始まる「フライ・ライク・アン・イーグル」では、「ザ・ジョーカー」のスティーヴ・ミラーとは隔たった洗練されたAOR的なサウンドが展開します。当時、日本のラジオからはこの曲がよく流れてきたものです。

 この曲のおかげで、前作とは断絶したアルバムのような気がしていましたけれども、むしろこちらが異色で、アルバム全体はスティーヴ・ミラー・バンドらしい若干脱力系の泥臭いブルース・ロックが目立ちます。

 ただし、この人はシンセサイザーのシュワシュワしたサウンドが大好きなようで、隙あらばシンセをぶち込もうとするところが子どもみたいで面白いです。クレジットを見る限りでは、スティーヴ・ミラー自身が弾いています。

 そんなサウンドも捨てがたいのですが、私の一押しは「星空のセレナーデ」です。リズム・ギターがカッコいい曲で、後にベスト盤にも収録されますから、本人たちも気に入っているのでしょう。AORというよりももっさりしたメロディー・ラインがじわじわくる佳曲です。

 ジャケットにはザ・ギタリストとしてのスティーヴが写っています。まさにギタリストのアルバムというジャケットですから、実際のサウンドとはイメージが随分違います。スティーヴのジャケット選びのセンスは面白いものです。

 ところでバンドは前作とはがらりと代わって、トリオ編成になりました。ベースにはロニー・ターナー、ドラムにはゲイリー・マラバーといずれも過去にバンドに参加していたメンバーです。特にロニーはデビュー当時にも一緒にやっていました。

 ホーム・スタジオでの録音ですし、バンドと名乗ってはいるものの、まるでスティーヴ・ミラーのソロ作品です。創作の自由を完全に手中に収めたスティーヴは充実の極みにありました。イギリスを始め、海外の市場をもこじ開けた名盤です。

Fly Like An Eagle / Steve Miller Band (1976 Capitol)