まるでオーデュボンの博物画のようなジャケットです。よく見ると鳥のしっぽからは赤青緑のコードが出ていますから、これがオリジナルであることが分かります。裏面には真空管や抵抗器などが博物画的に描かれています。意表をついてカッコいいです。

 マザー・テレコとは物議を醸しそうな名前です。聖人マザー・テレサはいじってよいのかどうか、インド派の私としてはやや慄然とするところですが、若い方はあっけらかんとしていて羨ましいです。こだわりがない。

 このユニットはオープン・リール・アンサンブルに居た佐藤公俊と難波卓己の二人からなる電子音楽バンドです。オープン・リール・アンサンブルはその名の通り、オープン・リールのテレコを使ったユニークなバンドでした。だから母なるテレコ、マザー・テレコなんでしょう。

 彼らはアンサンブル脱退後の2015年10月から活動を開始しており、ファッションショーの音楽や、舞台公演の音楽、さらにはアートスペースでの音楽などにその活動の場を広げています。イベント系の音楽が多い模様です。

 この作品は制作に約1年もの時間を費やした彼らのデビュー・アルバムです。すべてのサウンドを二人で作っており、ゲストはボーカルのみです。公式サイトの写真を見る限りでは、オープン・リールは使っていない模様です。

 ボーカル・ゲストは3人、まずは宇多田ヒカルの「ファントーム」に参加して話題となった小袋成彬、エレクトリック・ポップ・バンド、ファー・ファームのico!(アイコ?イコ?)、レーベルメイトのアニー・ザ・クラムジーです。小袋以外は初めて聞いた名前です。

 公式サイトでは彼らのサウンドの特徴を「エレクトロニクスとオーガニックなサウンドを掛け合わせた」と表現されています。ライブではそうなのかもしれませんが、このアルバムでは圧倒的にエレクトロニクスが勝っています。

 二人の演奏している写真を見ると、リック・ウェイクマンの4畳半キーボードを思い出して懐かしくなりました。鍵盤やつまみの類が所狭しと並んでいますし、やたらとコードが蠢いています。今の機材ならばもっとすっきりできたでしょうが、そうはしない。面白いです。

 サウンドもこれまた律儀なエレクトロニクス・サウンドです。何と言いますか、私は1970年代後半のボウイのベルリン三部作を思い出しましたし、ボーカル曲ではイエロー・マジック・オーケストラが降臨してきたような気がしました。

 オープン・リール・アンサンブルはレトロ・フューチャーな持ち味でしたが、ここではそれをさらに踏み越えました。アンビエントでもないし、クラブ系ミュージックとも違います。それよりも昔のロックの色合いが濃い。

 そういう意味ではとても聴きやすいアルバムです。ファッションショーでもてはやされるのもよく分かります。折り目正しいサウンドが心地好い。奇を衒った冒険はなく、正面から美しい電子音に取り組んだ姿勢が気持ち良いです。

Oracle / Mother Tereco (2017 Rallye Label)