イースターのマスクなんだそうです。てっきりプロレスラーのマスクだとばかり思い込んでいたので驚きました。私はこのアルバムをジャケ買いしたわけではありませんから、それでも構いません。ノーマン・シーフの写真は素晴らしいですし。

 しかし、私はこのアルバムを聴いてもいないのに買ったことは間違いありません。中学生にとってLPは高価なものだったにも係わらず意を決して買いました。ジャケ買いではなく、全米1位買いです。洋楽を聴き始めた私には全米1位は眩しすぎた。

 スティーヴ・ミラーは自動車事故にあって約8か月間休養していました。それでも何とかキャピトル・レコードとの契約更新にこぎつけたスティーヴが復活作として発表したのが、この作品「ザ・ジョーカー」です。

 事故で肩の力が抜けたのか、8作目にして初めての大ヒットを記録しました。アルバム自体は全米2位なんですが、シングル・カットされたタイトル曲が全米1位を獲得したんです。ブルースに軸足を置くスティーヴにとっては、もちろん初めてのことです。

 初めて聴いた時のことを思い返してみると、同時期に聴いていたオールマン・ブラザーズ・バンドやマーシャル・タッカー・バンドなどのサザン・ロック勢やCCRなどの西海岸勢の作品とは随分印象が異なることに戸惑いを覚えたことを思い出しました。

 一言でいうと格好良くない。泥臭いというのでもありません。ゴリゴリのバンド・サウンドを聴かせるでもなく、まるでシンガー・ソング・ライターのアルバムのように感じました。それも随分と年季の入ったブルース親父のソロ・アルバム。

 バンド名とタイトルから受けていた印象とはかなり隔たりがありました。しかし、そこは中学生です。一緒に歌いながら一生懸命聴きました。ほとんど勉強に近く、このアルバムが私の洋楽体験の基礎の一部を成すことになりました。

 その結果、この渋さがむしろ格好いいのであると評価を変えることになっていきました。飄々とした間が抜けたともいえるスティーヴのボーカルと、ところどころ唸らせてくれるギター、控えめなリズム・セクションにアーシーなオルガン。結構バランスがよかった。

 しかし、アルバム全体の統一感はさほどありません。特にライブ録音2曲とスタジオ録音曲との間の落差は激しいです。さらに同じスタジオ曲でも、まるでヴェルヴェット・アンダーグラウンドを思わせる「サムシング・トゥ・ビリーヴ・イン」などは随分違う音像です。

 スティーヴは、このアルバムの中で彼の代表曲である「ギャングスター・オブ・ラヴ」と「スペース・カウボーイ」のことを2回も持ち出しています。これは彼の分身ともいえるキャラでしたが、ここで「ジョーカー」にバトンタッチすることとなります。

 青空の下でギターを奏でるちょっと翳りのあるキャラクター宣言です。このアルバムはそのジョーカーのさまざまな一面を表現したものだと言えるのでしょう。ロバジョンのカバーからロックン・ロールまで。ジョーカーは♪愛し続けていたいだけ♪なんです。

The Joker / Steve Miller Band (1973 Capitol)