当時は、唐突に日本盤が発表されたので驚きました。インディーズの草分け的存在のラフ・トレードから発表されていなければ、こんなアルバムが日本で発売されるわけはありません。ともあれ、おかげでリアル・タイムでこの作品に触れることができました。

 レッド・クレイオラはメイヨ・トンプソンを中心に1966年に結成されたアメリカのバンドです。アヴァンギャルドな音作りのロック・バンドでしたが、「散発的にライヴをやるだけの10年」を過ごしたといいますから、バンドらしくないバンドです。

 そんなわけなので、結局、メイヨ・トンプソン=レッド・クレイオラとするのが適当です。そのトンプソンは英国に活動拠点を移し、ラフ・トレードでニュー・ウェイブ・バンドのプロデュースなどを手掛けるようになります。自身の音楽活動ももちろん続け、これはその一つです。

 コラボしているアート&ランゲージはレッド・クレイオラと同じ頃に英国で結成されたアート集団で、同名のジャーナルを発行していたことからこの名前で呼ばれることになりました。トンプソンとは70年代半ばにコラボしていましたが、これは再結合後の作品第二弾となります。

 この当時、アート&ランゲージは実態上3人くらいしか残っておらず、かなり政治化していた様子です。アルバムにはアート&ランゲージの役割は明記されていませんが、どうやらトンプソンと彼らは全曲を共作している模様です。

 その曲を演奏するレッド・クレイオラはトンプソンの他に、元Xレイ・スペックス、エッセンシャル・ロジックのローラ・ロジック、レインコーツのジナ・バーチ、スウェル・マップスのエピック・サウンドトラックス、ペル・ウブのアラン・レイヴェンシュタインなどから構成されています。

 盟友ペル・ウブを除けば、いずれも英国のパンク/ニュー・ウェイブ・シーンの渋いところからのミュージシャンです。トンプソンはこの時点ですでにベテランでしたから、若いミュージシャンたちとのコラボレーションは大いに刺激になったことでしょう。

 サウンドは一言で言えば、通常のポピュラー音楽とは異質なアヴァン・ポップ・サウンドです。例えば、冒頭のタイトル曲の歌詞。ほとんど散文的にカンガルーの名前の由来を語る説明的な歌詞です。普通のポップスとは質感が異なります。

 続く、ロシア革命の立役者レーニンとアクション・ペインティングのジャクソン・ポロックのことを歌った歌もそう。とても散文的なんです。サウンドも同様にアヴァンギャルドが先に立つわけではないのですが、歪んでひねくれた超然としたポップ。牛心大王を思わせます。

 曲にはレーニン、トロツキー、プレハーノフなどの名前が並び、反資本主義的な主張がつづられるところは、冷戦真っ只中だった当時の世相を反映しています。ポップスの枠をはみ出る超然としたポップなサウンドでこうした主張をする。スラップ・ハッピーにも通じます。

 本作にはジェイムズ・ブラッド・ウルマーへの感謝が捧げられています。ウルマーらしいギターがところどころ聴こえてくるように思うのですが、どうでしょうか。面白い取り合わせですが、見事にはまっています。

Kangaroo? / The Red Crayola with Art And Language (1981 Rough Trade)