CD屋さんで初めて出会った時は新人かと思いました。セルメンさんと同姓同名の新人、それが許されるほど時は経ったんだなあ、ひょっとして息子?などと思ったのですけれども、お店のフリップにはちゃんと「あの」セルジオ・メンデスと書いてありました。

 それではトリビュート盤なのだろうかと考えましたが、それも違いました。「豪華ゲスト」とも書かれていたので、結局、これはサンタナの大復活作「スーパーナチュラル」と同じ路線のアルバムなのだろうと一人納得してレジに持って行ったのでした。

 セルジオ・メンデスは誰もが知るブラジル音楽界のスーパースターです。生まれは1941年で50年代後半からジャズ・ミュージシャンとして活動していましたが、1964年のクーデターを機に米国に移住します。そこで発表したボサノバのアルバムが世界で大ヒットしました。

 以降、コンスタントに活動を続けますが、1996年からの10年間はアルバムの発表がありませんでした。この間も世界中でコンサートをやっていたそうですから、音楽活動は活発に続けていたわけです。

 この作品は、ヒップ・ホップ・ユニット、ブラック・アイド・ピーズで大成功を収めたウィル・アイ・アムがどっさりとセルメンさんのレコードを抱えてやって来て、いかにセルメンさんの音楽を愛しているかを本人に語ったことから生まれたといいます。何ともいい話ではないでしょうか。

 先立つ10年間を休養期間と捉えていたセルメンさんはウィルの意気にほだされてアルバム制作を決意し、ここにこうしてウィル・アイ・アムのプロデュースでアルバムが誕生しました。この時、サンタナの故事が頭にあったことでしょう。

 ウィル・アイ・アムが集めたゲスト陣が豪華です。まずはジャスティン・ティンバーレイク、エリカ・バドゥ、インディア・アリー、ジル・スコット、ジョン・レジェンドなどなどの名前が並びます。さらに忘れてはならないのはスティービー・ワンダーの参加です。

 そして、このアルバムの特徴はセルジオ・メンデスの代表曲をさまざまな仕方で料理していることです。まずは彼の代表作中の代表作「マシュケナダ」です。1966年に彼をスターに押し上げた曲です。ラップを交えてヒップホップ調にリメイクして秀逸です。やはり曲がいい。

 そして二曲目の「ザット・ヒート」にはこれも1966年のアルバムからの曲「スロー・ホット・ウィンド」という曲がサンプリングされて使われています。ここに新たな演奏も加え、エリカ・バドゥのボーカルを組み合わせるという自由度の高いアレンジを施しています。

 こうしてセルメン・クラシックスを見事に現代に蘇らせています。大胆なヒップホップでありながら、昔のセルメンさんの良さも分かるようになっている。この配合度合いも絶妙で、結果、タイトル通り時代を超越しました。素晴らしいです。

 結果的にヒップ・ホップとブラジルの親和性の高さには目を見張るものがあります。ブラジルにはラップ芸もあるそうですから、そんなところにもまるで無理している風はありません。とても自然に融合されていて、これまであまりこういう作品がなかったのが不思議なくらいです。

Timeless / Sergio Mendes (2006 Concord)