禁断の兄弟愛に耽溺する背徳の双子、過剰なまでに凄艶な立ち姿、ジーン・ラブズ・ジザベルという妖しい中世神話のようなユニット名。もうこれはジュネやアランの世界そのもの、ハードコアな少女マンガの世界そのものです。

 ジーン・ラブズ・ジザベルは英国ウェールズ出身のアストン兄弟を中心とするバンドです。PiLの影響を受けてバンドを始めたといいますから、すでにポスト・パンク世代だと言えます。後にポジティブ・パンクと言われる彼らですが、パンク世代ではありません。

 結成は1980年で、翌年にはロンドンに出てきて演奏活動を始めると、比較的早く4ADレコードのピーター・ケントに認められて、彼の新たなレーベル、シチュエーション2と契約を交わし、1982年5月にはすでにシングル盤を出しています。とんとん拍子です。

 ただし、アストン兄弟と当初から活動を共にしているギターのイアン・ハドソン以外のメンバーは入れ替わりが激しく、かなり流動的でした。故郷を同じくするトリオとよそ者との組み合わせはなかなかに難しいのでしょう。

 ちょうど同時期にセックス・ギャング・チルドレン、サザン・デス・カルト、エイリアン・セックス・フィーンドなど、ある意味では同傾向のバンドが出てきたことから、ここぞとばかり、英国NME誌はポジティブ・パンクという名前を付けました。

 一見、ポジティブでもパンクでもないように思いますが、ポスト・パンクに花開いた耽美派暗黒バンドですから、何となくぴったりくるようにも感じます。日本ではゴシック・ロックの方が通りがよかったでしょうか。するりとビジュアル系に繋がっていく流れです。

 それはさておき、この作品はジーン・ラブズ・ジザベルのデビュー・アルバムにあたります。「約束」を邦題として、当然のごとく日本でも発売されました。日本のファンは美形の兄弟を決して逃がしません。ただ、ちょっと日本人向きではない風貌かもしれませんが。

 この作品は英国ではインディーズ・チャートで首位を獲得しています。インディーズ・チャートとは言え、新人バンドとしては上々の滑り出しです。このまま米国にわたり、元ベルヴェッツのジョン・ケイルの前座としてツアーにも出ています。

 アルバムのプロデュースはアズテック・カメラなどを手掛けたジョン・ブランドで、エンジニア出身の人らしく、エコーの森の中で巧みにエフェクト処理を施しています。ジーン・ラブズ・ジザベルの耽美と頽廃を旨とする音楽を実現するのに最適な選択です。

 まだ若いだけに達人の演奏というわけではありませんし、兄弟のボーカルも名人の域に入っているとは全く言えません。その代わりに若さが漲っています。元気な頽廃、鮮やかな耽美。そんな世界は確かにひどく前向きです。

 またジャケットが素晴らしい。ジャクソン・ポロックとアンディ・ウォーホルを合わせたような絵がらで、正面から二人の姿を描かない分、余計にそそります。実際にはマッチョな兄弟なので、こうしたイメージの方がゴシック的ではあります。

Promise / Gene Loves Jezebel (1983 Situation 2)