いきなり二枚組でデビューしたアーティストと言えば、フランク・ザッパのマザーズとシカゴが思い浮かびます。この事実だけで両者ともに端倪すべからざるものがあるアーティストであることが分かります。この当時、二枚組は事件でした。

 「シカゴ・トランジット・オーソリティー」と題されたこの作品がシカゴのデビュー作です。全米チャートでの最高位は17位ですが、何と3年以上にわたってチャート入りしていたんだそうです。二枚組が3年以上。

 そして、当時のFM放送局の多くがこの二枚組をコマーシャルの中断なしで全部流したということです。1969年という時代背景とともに、こうしたシカゴ伝説に触れる時、当時の若者がいかにシカゴの音楽に真剣に耳を傾けたか、思いを馳せてしまいます。

 後にポップ路線に進む彼らですけれども、この頃のシカゴは明らかに時代を切り開いていく開拓者でした。「これほどまで『ジャズ』と『ロック』を融合させた音楽があるだろうか!」と当時の帯は叫んでいます。「ニュー・ロック界を我が物顔で独走するニュー・グループ」登場です。

 このように、しばしばシカゴはジャズ・ロックと言われます。これは7人組シカゴの3人が管楽器を扱うからです。単にそれだけの話で、ホーンがあればジャズという思い込みに過ぎません。サウンドを聴けば彼らが純然たるロック・バンドであることが分かります。

 その意味ではブラス・ロックの方が正しい。そのブラス・ロックはやはり新鮮でした。改めて聴き直しても新鮮に響きます。ブラス・ロックでは、ブラッド・スウェット&ティアーズなどの先達はいたものの、確かにシカゴがパイオニアでした。

 シカゴは全員がシカゴ育ちで、バンド活動もシカゴで始めましたが、ほどなくロスアンジェルスにベースを移してレコード・デビューを果たします。そして、この伝説のデビュー作は、ニューヨークのスタジオで、ほぼ一発録音されています。

 全員が音楽教育を受けていて、「僕らが一緒に曲を演奏しだすと、それぞれのメンバーたちが身につけてきたものが、自然と現れてくる。そこには、あらかじめ決められたことなど、何もなかった」。トランペットのリー・ロックネンの言葉に勢いを感じます。

 トロンボーンのジェイムズ・パンコウは、「僕らのホーン・セクションは、メロディックな音が実際のヴォーカルに寄り添うアプローチの仕方なんだ」と、ロックンロール・バンドにホーンが独特の手法で入るサウンドの秘密を語っています。なるほど。

 一方、ギターのテリー・キャスによるジミヘンばりの「フリー・フォーム・ギター」なる曲が目を惹きます。まさに曲のタイトル通りなんですが、結構端正なフリー・フォームです。シカゴは全体に端正なんです。折り目正しさが迫力となっているサウンドです。

 忘れてならないのは、1968年8月の反戦デモと警官隊の衝突をテーマにした組曲です。メインをインストにしたところに彼らの強靭な姿勢を感じます。この世界との向き合い方が60年代シカゴのシリアスな姿勢を遺憾なく表していました。見事なデビューでした。

Chicago Transit Authority / Chicago (1969 Columbia)