「ダンシング・マルキス」とは「踊る侯爵」という意味で、19世紀末に放蕩の限りを尽くして資産を食いつぶしてしまったアングルシー侯爵ヘンリー・パジェットにつけられたあだ名です。いかにもマーク・アーモンドらしい。退廃貴族はマークにお似合いです。

 本作品の表題曲は、その侯爵とグラム・スターと自分に触発されたと書いてあります。アルバム・タイトルでもあるこの曲は1曲目に配置されており、聴く人はいきなりマーク・アーモンドの濃厚な世界観に染められていく寸法です。

 マーク・アーモンドは2010年に「ヴァリエテ」を発表した後、もはやオリジナル曲でのアルバム作りはしないつもりでした。しかし、ボウイやボランのプロデュースで有名なトニー・ヴィスコンティから、ぜひ一緒にやろうと持ち掛けられました。

 じゃあということでスタジオを4週間借り、失敗プロジェクトだったジグ・ジグ・スパトニックに在籍していた相棒のニールXことニール・ウィトモアと急いで曲を作り、ヴィスコンティのプロデュースで2曲を録音します。アルバム1曲目と2曲目の「バーン・ブライト」です。

 そうするうちに、ブリット・ポップのパルプにいたジャーヴィス・コッカーがマークに曲を書き、ガレージ・バンドのリバティーンズにいたカール・バラットからも曲が届き、さらに何年か前にエルヴィス・コステロのバンドにいたスティーヴ・ニーヴと共作していた曲を引っ張りだします。

 これでミニ・アルバムとしての体裁が整います。シングル2作として発表されたこともあり、公式サイトでもフル・アルバムとしての扱いにはなっていませんが、分量としては立派なアルバムですし、しっかりと作品としてのまとまりがあります。

 ジャーヴィスの曲が凄いです。タイトルは「ワーシップ・ミー・ナウ」、直訳すれば「私を崇拝せよ」です。マーク自身が歌詞を書いているわけではありません。ジャーヴィスがマークになり切って書いたのでしょう。ナルシシズムとデカダンス、ここに極まれりです。

 マークはこの曲が大変気に入った様子で、リミックスを二曲も同包しています。ここまで言い切ってしまえば後は怖いものはありません。マーク・アーモンドの世界に忌避感を持つ人であっても諦めてくれるのではないでしょうか。

 ダンディーの権化だったアーティスト、セバスチャン・ホースリーとマーク・ボランに捧げられた「デス・オブ・ア・ダンディ」には、Tレックスのトリビュート・バンド、Tレクスタシーのダニエルズが参加しています。

 こうした情報を眺めるとマーク・アーモンドを巡る世界がいかに安定しているか分かります。時代の流行とか一切考えずに我が道をサイの角のように歩む。その周りには同じような志のアーティストが集まって来る。カッティング・エッジではないけれども、古くて新しい。

 とりわけ本作はいつものマーク・アーモンドでありながら、ポップさが全開となっており、ハンカチの隅を咥えてキラキラ瞳でマークの歌を眺めるにふさわしいです。エレ・ポップ、デカダン・バラード、もはやマークの独壇場。

The Dancing Marquis / Marc Almond (2014 Cherry Red)