どこのイケメンかと思いきや、これは怪童ドュダメルではありませんか。まるでプロレスラーのような姿からは想像しがたいものがありますが、これもドュダメルに間違いありません。2007年のモノクロ写真は格好いいです。

 ドュダメルとシモン・ボリバル・ユース・オーケストラは、2006年にベートーヴェンの交響曲第5番と第7番で鮮烈なデビューを飾りました。これはそれに続く第二弾です。発表こそ2007年ですが、録音は同じ2006年です。

 シモン・ボリバル・ユース・オーケストラは、ベネズエラ政府が支援する音楽教育プログラム、エル・システマによって生み出されたオーケストラです。エル・システマは、「奏でて戦う」ことをスローガンに、若者たちを音楽によって導く音楽の社会運動でもあります。

 ドュダメル自身もこのシステムによって教育を受け、17歳の時にこのオーケストラの音楽監督に就任しています。当然メンバーたちも若いですし、この話だけからしても大変な士気の高さと勢いを感じないわけにはいきません。

 実際、彼らはヨーロッパ各地のコンサートに招かれるなどの評判を呼んでおり、ドュダメルがドイツ・グラモフォンとの専属契約を結んだことから、オーケストラとしてもレコード・デビューすることと相成ったわけです。

 もともとドュダメルは2004年に第一回グスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝して脚光を浴びたということですから、マーラーは好きなんでしょう。彼の風貌や圧倒的な迫力を考えるとこれはベスト・マッチかもしれません。

 したがって、彼らがデビュー作の後という難しいところでマーラーの交響曲第五番を選んだのは自然なことなのでしょうし、よほどの自信もあったのでしょう。その結果は見事なまでに若くて溌剌とした演奏となりました。

 私にとってはザ・クラシックとでも言うべき作品です。冒頭の葬送行進曲から、緩急強弱ジェットコースターのようですし、有名な第四楽章のようなしっとりとした場面もあるこの作品を若さがズンズン刈り取っていきます。

 マーラーの交響曲第五番には、「凄演」と称される名演奏が数多く残されていますから、そこに若いオーケストラが切り込んでいくのは勇気のいることでしょう。案の定、マーラーの懊悩が表現できていないなどと評する人もいます。

 しかし、マーラーの曲を演奏していてるからと言って、マーラーに縛られる必要はありません。表現すべきはドゥダメル&シモン・ボリバルです。その意味では、とにかく若々しくて清々しい突っ走るマーラーは素晴らしいと思いました。

 まさに時々の花。若いオーケストラの作品をレコードで聴く機会は意外と少ないですから、こうしたロケンロールな演奏はとても貴重です。ベネズエラなので、ロケンロールではなくて、ラティーノですが。

Mahler : Symphony No.5 / Gustavo Dudamel (2007 Deutsche Grammophon)