すでにAIによる作曲の試みがあるそうですから、シンギュラリティが到来したら音楽はどうなってしまうのか心配にもなります。しかし、ここに答えがありました。そうです。AIに作曲させて、人が演奏すればいいんです。

 成果や効率だけを目的としない肉体活動は機械には決して代わることはできません。まず演奏者は演奏することが楽しいし、それを見たり、一緒に歌ったりするのが楽しい、ということになると無敵です。やはり人力音楽は不滅でしょう。

 ゴーゴー・ペンギンは別にAIに作曲をお任せしているわけではありませんから誤解なきよう。ただ、楽器ではなくコンピューターを使って作曲していたりしており、「僕たちはアコースティック楽器でエレクトロニック・ミュージックを再現している」んです。

 彼らは数々の名バンドを生んだ英国マンチェスター出身のピアノ・トリオです。前述のような音楽ですが、一応、ジャズに分類するのがよさそうです。編成はピアノ、ドラム、ベースですから、正統派ジャズ・トリオです。

 このアルバムは彼らの3枚目となるアルバムです。この時点でまだ全員が20代と若い。前々作はクラブ・ミュージックの大御所ジャイルス・ピーターソンに激賞され、前作はジャズとしては異例なことに英国のマーキュリー音楽賞にノミネートされました。

 満を持しての3枚目となる本作はジャズの名門ブルー・ノートからの発表です。現社長のドン・ウォズ自身が彼らの作品を聴いて引っ張ったそうです。どうでしょう、この玄人筋からの評価のされ具合は。いかに彼らが注目されているか分かるというものです。

 確かに「ジャズをベースにしながらも、クラシックからテクノ、ドラムンベース、ダブステップなど、様々なジャンルの音楽から影響を受けて構築された独自のサウンド」は、正統派ジャズとはかなり異なります。クラブ・ジャズ的でもあり、ポスト・クラシカル的でもあります。

 そんな彼らのこだわりはアコースティック楽器にあります。「スマーラ」という曲など、シンセサイザーかと思いきや、プリペアード・ピアノでそんな音を出しているそうですし、終盤のドローンも生演奏だと言いますから徹底しています。

 打ち込みビートもなく、エレクトロニクスは一切使わない。しかし、曲の原形は「シーケンス・ソフトで作られたエレクトロニックな曲として始まった。それを僕がバンドのために演奏してアコースティックな形で再現できる術を模索した」そうです。ドラムのロブ・ターナーの弁です。

 新たな時代に対応する試みですけれども、その結果として出てきたサウンドはとても親しみやすいものです。ゴーゴー・ペンギンなんていう可愛らしい名前がぴったり合っています。人力ドラムン・ベースにポスト・クラシカルなピアノの組み合わせはとても相性がよい。

 アルバム・タイトル「人工物」は自分たちのことを指しています。ゴーゴーペンギンを聴いていると、人力による演奏の未来は明るいと感じます。肉体による演奏はとにかく気持ちが良い。シンギュラリティ何するものぞと大いなる未来に向けて歩き出しましょう。

Man Made Object / Gogo Penguin (2016 Blue Note)