オールミュージックのレビューの中で、本作とファースト・ソロ作のジャケットが似ていると書かれています。私も何度も両者を混同してしまっていたので、同じような人がいるもんだと嬉しくなりました。よく見るとさほど似てるわけでもないのですが。

 しかし、同じレビューにて、サウンドも似ていると書かれていますが、そこには賛同しかねます。もちろん同じ人のソロ作品ですから、その限りでは似ているのですけれども、ローデリウス作品の中ではむしろ似ていない方だと思います。

 それもそのはずで、本作品はクレジットこそありませんが、セルフ・ポートレート・シリーズの第四弾だということです。本人は、「クラウト・ロック大全」を書いた小柳カヲルさんには「内緒にしてね」と言いながら打ち明けたそうですが、再発ライナーには堂々と書いてあります。

 ただし、これまでのセルフ・ポートレート作品には、本人がライナーノーツ的なことを書いていましたが、本作では「静かに聴かれるべき音楽だ」と書いてあるだけです。録音データもありませんし、いつも書いていた音質が悪いことに対する弁解もありません。

 だからと言って音質が良いのかというとそんなことはなく、いつもの「セルフ・ポートレート」音質です。これも2トラックのテープに録音したのでしょうし、テープのヒス・ノイズが残っている曲もあります。要するにこれまでと同じです。

 素材自体も恐らくはこれまでと同じテープの山から選ばれたのでしょう。しかし、ネタ切れになるどころか、ますます充実しています。ご本人も自分の作品の中で好きな作品の一つにこれを挙げているほどです。考えてみれば不思議なことです。

 音源はシンセサイザーと紹介しているレコード・ショップもありますが、相変わらずファルフィサ社のオルガンが中心であることは間違いないでしょう。ローデリウス・ファンには馴染みのサウンドが響いてきます。本当に耳に心地よい。

 再発盤のライナーは、「真綿にくるまれて」と題されています。「音楽が流れてきてもなおその性質として静かなまま、まるで真綿にくるまれたよう」だと表現されています。一連のアンビエント作品のように音数が少ない訳ではありません。それでも「静けさ」が染み出す。

 実際には音もぎっしり詰まってますし、決して環境音楽ではありません。しかし、とりわけボリュームを絞って耳を傾けていると、静けさが訪れると言いたい気持も良く分かります。穏やかな生活の一コマは振り返ってみれば静かな光景に思えるものです。

 ここには、奇矯なエレクトロニクスがあるわけでもなく、人を不安にさせるリズムもない。気持のよい穏やかな美しいサウンドがひたすら流れてきます。低音のブンブンうなるミニマルなビートもあるのですが、それすらも美しく響かせる手腕はさすがです。

 ローデリウス自身は音楽教育を受けたことがなく、楽譜も読めないそうです。そんな彼の音楽に対して、ハンブルグ音楽学校の先生が、「一体全体ローデリウスはどこでこんな美しい音の連なりを見つけたんだ?」と問うています。一家に一枚「セルフ・ポートレート」を。

Wenn Der Südwind Weht / Hans-Joachim Roedelius (1981 Sky)