ここ日本では、まだあどけなさを残したティーンエイジャーが、お父さんの時代のレトロなロカビリーを粋がって奏でているというのがストレイ・キャッツの一般的なイメージでした。ですから、本作品も邦題は「涙のラナウェイ・ボーイ」、次作は「ごーいんダウンタウン」です。

 このデビュー・アルバムが発表されたのは1981年2月、原宿では竹の子族が話題になり始めた頃です。ローラー族はもう少し後のことですけれども、日本にはロカビリーのクールスがいましたから、ストレイ・キャッツはそのアイドル版と言った趣きでした。

 しかし、このバンド、そんなイメージとは裏腹になかなか凄いバンドでした。どうせ下手くそだろうと思った人が多かったのに、特にブライアン・セッツァーのギター・ワークは多くの人の度肝を抜いたと思います。かっこよすぎ。

 デビュー作となる本作は英国のチャートで6位にまで上がるヒットとなり、「涙のラナウェイ・ボーイ」と「ロック・タウンは恋の街」はシングルとしても大ヒットしました。彼らの最高傑作と衆目が一致する素晴らしいアルバムです。

 ストレイ・キャッツは英国で本格的にレコード・デビューしましたけれども、元々はニューヨークのバンドです。彼らのトレードマークとなるロカビリー・サウンドはニューヨークでも話題になっていたようですが、英国に渡ってからその人気に火が付きました。

 そのストレイ・キャッツはギターとボーカルのブライアン、ドラムのスリム・ジム・ファントム、ベースのリー・ロッカーのトリオです。スリムのドラムはスタンディング、リーのベースはウッド・ベースをスラップ奏法でというこだわりようでロカビリーの世界を再現します。

 プロデューサーには、ニック・ロウとのコンビで知られるロックン・ロールの探求者デイヴ・エドモンドが当たりました。ストレイ・キャッツとのケミストリーがばっちりであることは、このアルバムの完成度の高さを見れば一目瞭然です。

 デモ音源を聴くと、リーはスラップ奏法をしておらず、制作中に懸命に練習した模様です。ここに典型を見る通り、デイヴとストレイ・キャッツはサウンドの完成に向けて、並々ならぬ力を注いでいます。ますます最初に掲げたイメージが当たらないことが分かってきます。

 ロカビリーはエルヴィス・プレスリーが始めたようなものですが、このアルバムにはその頃のロカビリー曲のカバーも含まれています。ロカビリー調のオリジナル曲もあるものの、他にもスカを取り入れたサウンドやクラッシュのようなロックン・ロールなど意外と幅が広い。

 アルバムには収録されていませんが、シングルB面ではモータウンの曲もやっていることから分かるように、基本ロカビリーながら原理主義者ではありません。オリジナリティーもあり、演奏能力も高い。それでいてロカビリーの文句ない楽しさに充ちています。

 このアルバムがネオ・ロカビリーとかパンカビリー呼ばれるブームを巻き起こしたと言っても過言ではありません。50年代を80年代に蘇らせた功績は大きく、単なるアイドル・タレント扱いしていたマスコミには反省を迫りたいものです。

Stray Cats / Stray Cats (1981 Arista)