「ヒゲとボイン」とはまた妙なタイトルです。これは河童黄桜でお馴染みの小島功のビッグコミック連載漫画のタイトルと同じです。小島は手塚治虫と同年代の漫画家ですが、その住む世界はまるで違います。いわゆるサラリーマン漫画的な世界です。

 ちなみにボインという言葉はこのアルバムが発表された頃にはすでに死語の領域に片足を踏み入れていました。そこも含めておよそロック的な世界とは無縁であるはず。小島のイラストを添えつつ、そんな世界を引っ張ってきたところにユニコーンの真骨頂があります。

 ただし、本作はヒゲとボインがテーマになっているわけでもなく、ジャケットに見られる通り、テーマは「宇宙」だそうです。富士五湖の湖畔で野外録音も駆使して制作されていますから、宇宙と交感しながら作ったのでしょう。満天の星空が広がっていた情景が思い浮かびます。

 前2作が企画盤的でしたから、実質的には5枚目のアルバムということになります。「ケダモノの嵐」をさらに発展させた作風だと言えます。メンバー全員が曲作りのみならず、リード・ボーカルもとるという民主的な体制をさらに進んでいます。

 歌詞を記載したブックレットには、ところどころ歌詞の一部が大きくハイライトされています。♪悶える声♪、♪イライライライラ♪、♪小さな声の虫も死んでゆく♪、♪パパはママを殴った♪、♪憎み合う♪などなど、全体にダークなトーンがかもし出されています。

 歌詞全体はさほどではありませんが、ハイライトされている部分には♪素晴らしき哉 わが人生は上々♪を除いて前向きなものはありません。その部分も皮肉に聞こえないことはない。アルバム全体の雰囲気も、ご本人たちがいう通り「地味」です。

 サウンドにはこだわりの度合いがさらに進み、凝りに凝ってきました。野外で録音している曲には、雨の音や犬の鳴き声なども普通に入っていますし、アナログにカッティングした後、フリスビー遊びをしてわざと傷をつけて再生するなんていう凝り方もあります。

 「風」という小曲は、たき火を囲んで夜中にしみじみと録音されたそうで、たき火の音が入るという風情ある構成です。続く「家」は自然音を途中から逆回転して収録するという凝りよう。結局、逆にしてもほとんど変わりませんが。この曲の静から動への転換は見事です。

 「看護婦ロック」なる阿部義晴の曲は素直にエルビスの「監獄ロック」を想起させるかと思えば、同じ阿部の「フリージャズ」はまるでフリージャズではありません。ところが、チェイスの名曲をもじったのかと一瞬思わせる「黒い炎」のイントロ部分がまさにフリージャズです。

 まるでポール・マッカートニーが作ったような「オー・ホワット・ア・ビューティフル・モーニング」を聞いていると、アルバム全体がまさにビートルズの後期作品、たとえば「ホワイト・アルバム」的な色彩をかもし出していることが分かります。

 もともとユニコーンはビートルズでしたけれども、短期間の間にその音楽を変容させていくそのあり方もとてもビートルズ的です。本作への賛否両論もそう考えると納得できます。商業的には今一つでしたが、いろんな楽しみができるするめ盤であることは間違いありません。 

Hige To Boin / Unicorn (1991 CBSソニー)