1990年代のユニコーン第一作はしばしば最高傑作と呼ばれる「ケダモノの嵐」です。前作とはうって変わって、ロック・バンドらしいジャケットになりました。これも余裕の表れだと言っていいでしょう。セールスもバンド初のオリコン1位に輝いています。

 おまけにレコード大賞でベストアルバム賞、アルバム大賞を受賞するというおまけつきです。ちなみにこの年のレコード大賞は「おどるポンポコリン」ですから、バンドらしいジャケットにしなくても評価は変わらなかったと思われます。

 よく言われることは、このアルバムからメンバー全員がリード・ボーカルをとるようになったということです。数こそ違うものの、バンド全員が単独で作詞作曲した楽曲を提供しています。この点は確かに普通のバンドと違います。

 曲は全部で14曲、一番長い曲でも5分足らずと、アレンジに凝るバンドにしては短い曲が並んでいます。曲の中で目まぐるしい展開を示すというよりも、さまざまなアイデアを曲単位で提示する姿勢が潔いです。

 いきなりウクレレで始まります。ハワイアンというわけではありませんけれども、アコースティックな曲で描かれるのは、デリヘル?ホテトル?、まあそんなもんです。間奏部分では堀口博雄さんという方の口笛で「第三の男」が演奏されます。

 つづく「フーガ」は堀内一史の曲でジェット機の音を効果音に使った結婚ソングです。堀内は以前メンバーだった向井美音里と結婚したばかりということでした。「ロック幸せ」は川西幸一の曲を手島いさむとデュエットしています。

 ギター・ソロがカッコいいタイトル曲に続くのは、元おニャン子クラブでネプチューン名倉の奥さん渡辺満里奈が♪映画が好きなの♪と一言だけ呟く「エレジー」です。この曲の歌詞は多少不気味ですけれども、きもいオタクを歌っています。

 実はこのアルバム発表時には宮崎勤事件の公判が始まる頃ですから、重い重い歌詞なはずなんですが、そこはユニコーンらしい。奥田民生の歌詞はシリアスになり過ぎず、ユーモラスですから、時代背景が変わっても生き延びることができます。

 「自転車泥棒」はヴィットリオ・デ・シーカの名画とは関係ないミディアム・テンポの小憎らしい曲、「富士」は阿部義晴のバラードで、最後にカッワーリ風になります。これがA面です。この調子でB面も全曲あれこれ書きたくなるような見事なアルバムだと言い切りたいです。

 前作をさらに推し進めて、自信たっぷりに何でもアリ路線を突き詰めており、それぞれの完成度が極めて高い。前作の勢い溢れるサウンドから、より落ち着いてスタジオ・ワークを駆使して練りに練った末の作品なのでしょう。

 捻り過ぎると面倒くさくなるわけで、そのぎりぎりのところで勝負するユニコーンは凄いです。一生懸命だけど必死ではない。真剣だけど面白い。まとまっているけどばらばら。力はあるけど力を抜いてる。こんなバンドは他にありそうでない。いやはや面白いです。

Kedamono No Arashi / Unicorn (1990 CBSソニー)