ラーシーと言ってもインドの飲み物のことではありません。星座のことです。インド社会はホロスコープに支配されていると言っても過言ではないほど、星回りでいろいろなことを決めます。結婚などその最たるものです。星のせいで猿や樹木と結婚するはめにもなります。

 そんな風に星座が深く社会に浸透しているので、日本の血液型のように、各星座生まれの人のステレオタイプに一定のコンセンサスがあります。それを題材にしたボリウッド映画がこの「ホワッツ・ユア・ラーシー」です。あなたの星座は何ですか?

 この映画は、10日以内に結婚しなければいけなくなったハーマン・バウェジャ演じる主人公が、各星座生まれの女性12人とお見合いするというお話です。そして、その女性12人すべてを私の大好きな女優さんプリヤンカ・チョプラが演じ分けています。

 それぞれの女性の性格は各星座に典型的なそれなのですけれども、それが日本でも一般的なのかどうかは星占いに疎い私には判断しかねます。しかし、かなり大胆にデフォルメされているので、それぞれ全く性格が違います。プリヤンカの演じ分けは見事でした。

 サウンドトラックにはそれぞれの女性の性格を象徴する曲が12曲とそれを全部まとめた曲が1曲、全部で13曲とボリウッドのサントラにしては曲が多いです。普通のサントラとは比較にならない時間をかけた作品だと言えます。

 映画を監督したアシュトッシュ・ゴワリカーは当初ARラフマーンを希望していましたが、忙しい彼にそんな要求はできず、代わりに白羽の矢が立ったのは新鋭のソヘイル・センです。まだ作曲家デビューしたばかりでしたが、この作品で一気に知名度が上がりました。

 これはさながらシンデレラ・ストーリーで、ブックレットに寄せたセンの言葉はまるでレコード大賞新人賞をとった歌手のようです。否が応でも張り切ろうというもの、そのかいあって、このアルバムは高い評価を獲得した大力作になりました。

 監督の要求に応え、見事に12曲を描き分けています。楽器構成もさまざまなら、バングラ、カッワーリー、ジャズ、ポップスなどなど、曲調もさまざまで、中にはジャングルなり、テクノなりも出てきます。初心での頑張りには目を見張らされます。

 しかし、そうした冒険が試みられてはいるものの、決してやり過ぎないところがまた見事です。全体的にはボリウッドのサントラの枠を大きくはみ出さない。その中で、どれもこれも少しずつ新しい。チャンスを得た喜びが爆発しています。

 センはまた13曲中9曲でボーカルをとっています。これがなかなかの腕前で、1曲だけ唄っている有名なプレイバック・シンガーのシャーンに決して引けを取りません。なお、監督まで1曲歌っているのはご愛嬌です。

 ボリウッドには珍しくじっくり時間をかけた作品はソヘイル・センという新たな才能を世に送り出しました。面白かったのに映画はこけましたが、このサントラは高い評価を受けました。その評価に納得させられる快作です。

What's Your Raashee? / Sohail Sen (2009 Sony)