ソウル・ジャズ・レコードは1992年に設立されたロンドンのインディペンデント・レーベルです。ジャマイカのスタジオ・ワンとの提携でも知られるレゲエはもちろん、ソウル、スカ、ブラジルなどの過去の音源からダブステップまで守備範囲は幅広い。

 しかも、それぞれが実に素晴らしい。本当の意味でのレア・グルーヴを確かな目で発掘しては、丁寧なパッケージングで発表するという、理想的なレーベルです。こうした良心的なレーベルがしっかり続いていることに感動を覚えます。

 ア・サーテン・レイシオのコンピ盤はそのソウル・ジャズ・レコードから発表されました。今でこそソウル・ジャズはパンクのコンピなども数多く出していますが、この頃はどちらかといえばその名の通りソウルやジャズをクラブ系リスナーに届けるイメージが強かったです。

 そこにこのコンピです。私の中では、ニュー・ウェイブのア・サーテン・レイシオが、クラブ・ミュージックの先駆けとしてのア・サーテン・レイシオでもあったという理解に変わった出来事でもありました。それほどこの取り合わせは新鮮でした。

 しかも付けられたタイトルが「アーリー」です。この言葉は、有名な文化コメンテーターのピーター・ヨークがア・サーテン・レイシオの四人の写真を見て述べた一言、「マイ・ゴッド、ゼイ・ルック・ソー・アーリー」から採られています。

 この時の写真はドラムのドナルド・ジョンソンはおらず、ジャケットに裸で写っている四人のみです。どの写真かは特定できませんが、この顔、この髪型に、だぶだぶの半ズボンなどの同時代というよりも戦前の若者のような彼らを見ての「アーリー」です。

 もちろん、ここには彼らの音楽の先駆性がかけられています。この当時、ダンス・ビートとパンク・サウンドを融合させようと意識したバンドはいろいろいましたけれども、ア・サーテン・レイシオほど後のクラブ・サウンドに繋がる構造を持ったバンドはいませんでした。

 このコンピは二枚組で、最初の一枚には彼らの初期アルバム4作品から選曲された曲と、シングルとして発表された曲が収録され、二枚目には同じくシングル曲とジョン・ピール・セッションのライブ音源が収められています。

 彼らの場合はアルバム毎にかなり個性があったので、こうしてコンピレーションにしてみると少し変な感じもしますけれども、彼らの軌跡を手っ取り早く知るにはもちろん便利です。どんどん楽器がうまくなっていく様子も分かりますし。

 私はロンドンで彼らのライブを見たことがあります。1992年頃です。9時の開場から少し遅れてライブハウスに到着しましたが観客はまばらでした。それもそのはずで演奏が始まったのは12時前のことでした。勝手を知らないというのは恐ろしいことです。

 その時の彼らは初期のヒリヒリするような緊張感はなくて、普通のダンス・バンドのようになっていました。クラブ・ミュージックには違いありませんから、それなりに進化形なのでしょうが、あまり良い方向への進化ではなかったようで、残念でした。あれだけ待ったのに。

Early / A Certain Ratio (2002 Soul Jazz Record)