ピーター・バウマンの2枚目のソロ・アルバムです。ヴァージン・レコードからの発表で、当時、少し遅れて日本盤も発売されました。ジャーマン勢のレコードはとても手に入りにくかったので、狂喜乱舞して買ったものです。邦題がついていたようにも思いますが忘れました。

 前作ほどには奇矯ではないジャケットです。ドイツの自然の寒々とした光景を写し出した写真にピーターが普通の格好で佇んでいます。てっきりピーターのパラゴン・スタジオ近くかと思いましたが、同スタジオはベルリンの街中ですから違うようです。

 この作品を発表した1979年には、ピーターはすでにタンジェリン・ドリームを脱退して久しいですし、ご自慢の機材を据え付けたパラゴン・スタジオを設立して多くのアーティストのプロダクションを手掛けていました。

 仕事はかなり繁盛していた模様で、ピーターには自分のソロ・アルバムを制作する時間も強い意欲もなかったようです。そのため、この作品の制作にはクレジットによれば1978年7月から1979年1月まで7か月、ライナーノーツだと15か月以上かかっています。

 どうやら他のアーティストのプロデュース仕事をこなしながら、一日の終わりの休憩時間に自身の楽しみのためにさまざまな形で録音を進めていたということです。要するに二枚目のソロ・アルバムを作るんだという強烈な意思があったというわけではありません。

 「どの感情、音色、リズム、メロディーが自分に最も近いのか探りながら、単に音楽家としての自分自身を表現していたんだ」とピーターは語っています。そうしたマテリアルが次第に蓄積してきたので、アルバムにまとめてみたということなのでしょう。

 ピーターのこの言葉は前作もひっくるめての表現ですが、ファーストの方は最初からアルバムを作ることが目指されていたわけですから、本作とは少し事情が違います。アルバムとしての完成度、統一感は格段に高かったと思います。

 前作に比べると本作品は、何とも気楽で気ままな音楽が奏でられているように感じます。しかも、多幸感にあふれるサウンドです。単純な電子リズムに単旋律による可愛らしいメロディー。前作よりは多少音数が増えました。

 本作にはドラム、ホーン、リコーダーを奏でるミュージシャンが参加しています。ピーターが操作している楽器も、前作からのカスタム・シンセとメロトロンに加えて、ヴォコーダーが大活躍するようになりました。これがまたいい味を出しています。

 タンジェリン・ドリームとは異なり、サウンド・コラージュ的な手法をさほど用いていません。むしろ機材が発するサウンド一つ一つを慈しむように並べていっています。徹底的に明るい世界ですし、単純明快さが時代を超えています。子どもの心をもつ職人。

 ピーターはこの後ほどなくしてアメリカに移住します。その後の活動は少なくとも日本ではあまり注目を集めたものではなく、一時期は完全に音楽業界から姿を消してしまいました。2016年には突如復活しますからさすがは根が明るい人は違います。

Trans Harmonic Nights / Peter Baumann (1979 Virgin)