ピーター・バウマンがこの作品をリリースしたのはわずか23歳の頃でした。クラウト・ロックのベルリン派の草分けタンジェリン・ドリームに参加した時は19歳でしたから計算は合うのですけれども、聞くたびに、そんなに若いんだと驚いてしまいます。

 この作品は、タンジェリン・ドリームを英国でホストしていたヴァージン・レコードから発表されたピーターの初ソロ作品です。この頃、タンジェリン・ドリームの活動の合間を縫って、ソロ作品を作り始めたエドガー・フローゼがピーターにもソロを進めたんだそうです。

 すでにタンジェリン・ドリームの音楽が同じことの繰り返しになっているのではないかと感じ始めていたピーターは、タンジェリン入りの動機でもあった実験的な音作りをさらに進めるために、このソロ・プロジェクトに邁進しました。

 結果的にピーターはしばらく経ってタンジェリン・ドリームから卒業してしまいます。そしてパラゴン・スタジオを設立し、コンラッド・シュニッツラーの名作「CON」を始めとする素晴らしい作品群を輩出していくことになります。

 この作品は、ベルリンのホールを借りて録音されています。タンジェリン・ドリームもリハーサルで使っていたということで、サウンドの質が似ているのも頷けます。とても美しい録音ですから、みんながここを使いたがったのも分かるというものです。

 私はクラウト・ロックなどまだほとんど聴いたことがない頃、この作品の1曲目「バイセンテニアル・プレゼンテーション」と、ヴァージン・レコードの長靴豚の2枚組コンピレーションで出会いました。耳に残るメロディーとサウンド、ピーターの笑い声は今でも頭に焼き付いています。

 この音は「ザ・ビッグ・ワン」と名付けられたシンセサイザーによるものです。これはピーターのためにカスタム・ビルドされたシンセサイザーです。シンセらしいサウンドと言えば言えるのですけれども、あまりこんな音は聴いたことがありません。

 製作途中にデヴィッド・ボウイと食事をしたピーターは、実はまだサウンドに手を加える予定だった模様ですが、ボウイからそのままの方がいいとアドバイスを受けてそのままにしたんだそうです。大正解です。さすがはボウイ。

 シンセの他にはメロトロンが使われています。メロトロンはさまざまなサウンドを録音したテープをキーボードで操作して鳴らす元祖サンプリング楽器です。ピーターはこれをシンプルかつゴージャスに使いこなしています。

 音数は控えめで、シンセやメロトロンの音が丁寧に響きます。それにポップな曲調がたまりません。まさに「ロマンス」です。タンジェリン・ドリームにピーターがもたらしたものが良く分かります。音楽教育を全く受けていない達人はここにもいました。

 ジャケットは半分長髪、半分短髪の顔写真です。ピーター・バウマンの中世と近未来を合体させたようなサウンドを見事に表現しています。一部オーケストラも使ったサウンド・メイクは今でも十分に刺激的です。あの頃の近未来に僕たちは立っているのかな。

Romance '76 / Peter Baumann (1976 Virgin)