まずこのジャケットです。ヒプノシスの名作ジャケットは数多いですが、これなどもかなり上位に食い込むのではないでしょうか。お兄さんの試着している服は半ば透明になっていますし、彼を映す鏡2枚はまたそれぞれ着ている服が違います。親父の姿も素晴らしい。

 英国ならではのアイロニーに満ちたジャケットですが、アルバム・タイトルも負けていません。原題の「カンニング・スタント」は直訳すれば「ずる賢い離れ業」とでもなりますけれども、元はドラムのリチャードのジョークから取られています。

 魔法使いの杖は「カンニング・スタント」のために使われ、警官の特殊警棒は「スタニング・カント」のために使われる、こうリチャードが軽口を叩いたことからこのタイトルになったんです。後者の方はとても直訳できませんね。

 元々考えられていたアルバム・タイトルは何と「トイズ・イン・ジ・アティック」だったそうです。当時、エアロスミスが先に使ってしまったがために没になり、結果「カンニング・スタント」が採用されました。アイロニーとブラックなユーモアにあふれた名付けです。

 キャラバンはカンタベリー・シーンを代表するアーティストの一つです。この作品は彼らの7枚目のアルバムで、アルバムの前後にメンバー交代があったというごたごたした時期の作品ですけれども、意見は分かれますが最高傑作と言われることもあります。

 「ロッキン・コンチェルト」といういかにもプログレな邦題が示す通り、この表題曲はB面のほとんどを使った組曲形式になっていて、プログレ精神全開です。アルバム発表後に脱退するデイヴ・シンクレアの手になる名曲です。

 キャラバンがアメリカ・ツアーから英国に戻った際に、税関によって機材が没収されたために腰を落ち着けて曲を書くことが出来たという曰くのある曲です。こういう時には大作ができるものです。6つのパートに分かれる目まぐるしい展開のプログレッシブな大作になりました。

 一方、フロントマンのパイ・ヘイスティングスの曲が2曲、新加入のベーシスト、マイク・ウェッジウッドの曲が2曲、ヴィオラとフルート担当のジェフ・リチャードソンが1曲と、民主的な曲の採用の仕方になっています。

 ヘイスティングスの曲は明るいポップな持ち味です。シングル・カットもされた「スタック・イン・ア・ホール」は、イントロのカウベルがグランド・ファンク・レイルロードの「アメリカン・バンド」を想起させます。プログレとは対極にあるあのグランド・ファンクです。

 全体にカンタベリー系のプログレッシブなジャズ・ロックを期待しておけばそれほど大きくは外れません。このシーンの人々は離合集散を繰り返しながらも、みんなが英国の緑多い大地を渡る冷ややかな風を運んできます。

 キャラヴァンはデビュー以来「常にシーンをリードし続けた」と言われるように、突出した個性があるわけではない分、過不足なくカンタベリー・シーンを代表していると思います。ブルース臭くない英国のロックはとても気持ちが良いです。

Cunning Stunts / Caravan (1975 Decca)